青森県六ヶ所村長への要望書

再処理工場は「トラブルの発生は避け得ない」施設だと国は明言しています。村民に不安のある状況で、次のステップに進むことを了承しないでください

青森県六ヶ所村長 古川健治 様

六ヶ所再処理工場の数多くの不正溶接などの問題について、国の検討会での検討は3月30日の原子力安全・保安院見解(日本原燃株式会社「再処理施設 品質保証体制点検結果報告書」に対する評価)をもってピリオドを打ち、ボールが地元の貴職に投げられた状態になりました。すなわち、使用済み核燃料の受入再開とウラン試験開始への承認が貴職に要請されるような段階へと進んできました。

この保安院見解で再処理工場の問題は解決したのでしょうか。否、これからもトラブルが起こることを保安院は公言し、その事実を是認するよう貴職に迫っているのが実情です。この実情について、村民や広く一般の人々の立場に立って考慮していただくよう以下に要請します。

1.再処理工場では「様々なトラブルの発生は避け得ない」と保安院

保安院見解では、「内外の再処理施設の事例をみても明らかなように、規模の大きな化学プラントとも位置付けられる再処理施設は、機器レベルでの漏えいや故障の問題を始め、様々なトラブルの発生は避け得ないと考えられる」(25頁)と、問題が起こることを明言しています。

保安院の立場では、再処理工場が万全だなどとはとても言えないのです。なぜなら、「『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制については、今次点検の結果、幾多の本質的な課題が浮き彫りになった」(25頁)と認識しているからです。ここでいう「品質保証体制」とは、将来のだけではなく、再処理工場を建設した当時の体制を指していることを保安院ははっきりと認めています(当ネットワークの質問書への3月30日付保安院回答)。そうすると保安院の認識どおり、建設時の日本原燃には信頼性がないことになり、したがって、欠陥のある品質保証体制でつくられた再処理工場には全体的に信頼がもてないことになります。改善策によって仮に品質保証体制の改善がなされたとしても、その新たな体制によって施設を作り直すわけではありません。

昨年2月13日に、私たちネットワークが保安院と交渉を行ったとき、核燃料サイクル規制課のA担当官はプールについて、「不正溶接があっても穴があくだけ、漏れるだけ、修理すればよい」と言い放ちました。再処理工場の周辺に実際に住んでいる人たちの不安など、まるで眼中にないのです。今回の保安院見解でいう「様々なトラブルの発生は避け得ない」という記述を見ると、やはり保安院の態度は依然として変わっていないことが感じられます。

村民の立場に立つ貴職が、このような保安院の見解にはけっして同調しないことを強く望みます。事故が起こることを示唆しながら、貴職の承認を求めることは、事故時に貴職が矢面に立つことを強要することに他なりません。事故が起こることを承知の上で貴職が再処理工場の運転を容認するならば、事実上貴職は村民の立場を離れることを意味するでしょう。

2.「施設の健全性」は確認されていません

建設時の「品質保証体制」には本質的な問題があったが、「施設の健全性」が書類点検と現品点検によって確認されたから、施設を動かしても問題はないと原燃は主張しています。この考え方は、根本的な問題に取り組むより、スケジュールに合わせて補修を優先する発想から出ているもので、「品質保証体制」を余りにも軽視するものです。もし本当に「施設の健全性」が万全だというのなら、前記のような「様々なトラブルの発生は避け得ない」という保安院の記述はあり得ないでしょう。

また、書類点検の対象となった書類ははたして信頼できるものだったのでしょうか。抜き取り検査の対象にならなかった現品の健全性は確認されていません。PWR用プールの最初の水漏れ箇所を特定するのに1年4ヶ月もかかったことに比べると、余りにも短期間のずさんな点検です。

施設の健全性が確認されていないという一例を挙げましょう。コンクリート壁に彫られた水漏れ検知用の溝が確実につくられているかどうかの確認はなされていません。この点を保安院に質問したところ、すべてつくられていることは「目視等によって確認」されているとの答えが返ってきました。ライニングプレートという鉄板の下に隠れた溝をどうして目視で確認できるのでしょうか。この答えから、検知溝の存在が確認されていないことは明らかです。

3.不正溶接等の原因にはやはりスケジュール優先がありました

なぜ291箇所もの不正溶接が使用済み燃料受入・貯蔵プール(F施設)で行われたのか、その答えは、原燃が原発のプールとの違いを認識していなかったからです。なぜその違いを認識していなかったのかについては、この問い自体が立てられていないので、答えもありません。しかし、不正溶接の原因として、スケジュール優先があったのではないかとの議論が検討会の中でくり返し行われてきました。

これまで原燃は、スケジュール優先についてはけっして認めようとせず、溶接作業の程度はBWRプールの場合と同様だったと主張し、そのことを根拠づける資料を検討会にだしていました(検討会資料6-5)。

その後、私たちネットワークの質問に答えて、原燃は新たな資料を3月29日夕方に公表しました。前記検討会資料6-5ではF施設全体の工期が約7ヶ月と書かれていただけなのに対し、この新たな資料では、F施設内の各設備ごとの工期が記されています。それを見ると、主な工期は約3ヶ月であり、しかも少数の溶接士が、すべての施設で同時に溶接作業をしていた期間のあることが分かります。工期に無理があったこと、すなわちスケジュール優先であったことは一目瞭然です。その無理なスケジュールを規定していたのは、当時、使用済み核燃料の搬入が急がれるような差し迫った状況が存在したということでした。

しかし、原燃のこの新たな資料は検討会に出されなかったため、3月30日の第11回検討会でも検討されないまま、スケジュールに無理はなかったという原燃の見解が認められてしまったのです。

4.現在のスケジュール優先にけっして乗らないでください

原燃は、2002年11月から中断している使用済み核燃料搬入を再開したい意向を、3月31日と4月2日に表明しました。 

いま再び、原発の使用済み核燃料プールは差し迫った状況にあります。とりわけ、東電の福島第二原発4号機では、予定どおり使用済み燃料を取り出すことができないまでに、すでにプールがほぼ満杯の状況にあります。六ヶ所村に運びだす必要に迫られているのです。

しかし、安全性が確認されていない再処理工場のプールへの搬入を急いで実施してよいものでしょうか。それは、使用済み核燃料を救う代わりに、村民や広く一般の人々の安全を脅かすことに他なりません。けっしてこのような安易なスケジュール優先に乗らないよう要望します。

5.「トラブルの発生は避け得ない」施設の運転を村民は認めるのでしょうか

ボールが貴職に投げられた以上、使用済み核燃料搬入やウラン試験、ウラン試験に伴う安全協定など、次のステップに進むことへの承認が貴職には要請されることでしょう。

当面は、県議会や市町村長、原子力懇話会、村民に対し原燃が説明することになっています。それら通り一遍の説明が終われば、貴職が承認するのは当然のことのように予定されているのかも知れません。

しかし、その貴職の承認は、「トラブルの発生は避け得ない」施設について求められているのです。貴職が承認すれば、再処理施設の起こすトラブルによって、村民や住民はさまざまな被害に遭う可能性があり、少なくとも大きな不安を抱かざるを得ないような生活を強要されることになります。

六ヶ所再処理工場は「トラブルの発生は避け得ない」施設であること、そうであるからこそ、事故によって村民や住民が被害を蒙る可能性があること、これらも含めて、原燃や保安院から十分な説明がなされるべきです。

貴職には、原燃と保安院の形式的な説明をそのまま受け入れることなく、上記の点についてぜひ深く考慮してくださるよう要請します。村民や一般の人々が不安を抱かざるを得ないような状況で、次のステップに進むことを了承されることがないよう、くれぐれも重ねて要望いたします。

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以上

作成:2004年4月6日

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