福井県知事への要望書
関西電力のあまりにひどい「企業文化」の状態に目を向けプルサーマルの推進にストップをかけてください
福井県知事 西川 一誠 様
貴職には、集中豪雨による被害に心を痛められ、復興のために日夜努力されていることとお察しいたします。
さて、関西電力は7月12日に、報告書「海外MOX燃料調達に関する品質保証システム監査結果について」を貴職に提出し、「ご理解を得ながら、着実にプルサーマル計画を進めていきたい」との考えを表明しました。
しかしその前に、すでに関西電力の火力発電所検査記録の大規模な不正事件が発生していたため、貴職は6月2日に関西電力の原子力及び火力の事業本部長を呼び、「プルサーマルを含めた原子力事業全体の品質保証活動の推進の再徹底ということも申し上げた」と6月29日の記者会見で表明しています。このご意向によれば、現状において関西電力がコジェマ社との本契約に進むことはできないものと私たちは理解します。
他にも、下記に概略を述べるような、「企業文化」ともいうべき多くの問題を関西電力は抱えています(くわしくは、添付の関西電力への質問書および桑原氏の陳述書を参照していただければ幸いです)。貴職にはぜひ私たちの懸念をご理解いただき、プルサーマルの推進にストップをかけてくださるよう要望いたします。
1.火力発電所検査記録の大規模なねつ造・改ざん事件について
火力発電所検査記録のねつ造・改ざんについて、関西電力の6月28日付け報告書では、その原因として「品質システムに関わる火力部門のトップマネジメントの指導不足」を挙げています。このときの記者会見に社長は不在であったことからも、この問題を関西電力は、原子力も含む全社的問題として捉えていないようです。昨年10月23日付けで関西電力はプルサーマル再開に向けて「品質保証は改善された」との報告書を提出しましたが、まさにその同じ時期に、火力発電所では大規模な不正が行われていました。関西電力では、この事実が真剣に総括されているとは思えません。
貴職の見解にも示されているように、この問題は、プルサーマル推進体制も含む全社的な品質保証体制に重大な欠陥があることを強く示唆しています。今井高浜町長も7月14日の安管協で、「企業体質を問われかねない問題。全社で真摯に受け止めてもらいたい。原発もスケジュールありきではなく、安全性第一で取り組んでもらいたい」(7月15日福井新聞)との考えを表明しています。ぜひ、全社的な品質保証体制を改めて厳しく監査されることを期待します。
2.原子力発電における安全上の重大な欠陥
火力だけでなく原子力発電でも、新たに深刻な問題が次々と発生しています。そのうちの2点だけを以下に記述します。
- 大飯3号機の原子炉容器上蓋管台のひび割れと高浜3・4号機の問題
- 大飯3号機の原子炉容器上蓋管台の溶接部に生じたひび割れによって、1次冷却水が上蓋の上面に漏れ出すという深刻な事態が生じています。予測よりはるかに短い時間で貫通が起こったのです。大飯3号より運転時間が長く、同様に上蓋交換をしていない高浜3号及び4号でも早晩同様の事態が起こると予測すべきです。その高浜3号、4号で、このような状態を放置したまま、設計と異なる行為である危険なプルサーマルを実施することは許されるべきではありません。
- 大飯1号機の2次系給水管のひどい磨耗減肉について
- 大飯1号機の4系統の給水管のうち3系統で、仕様の6割以下にまで達するほどの減肉が起こっていました。このまま放置すれば、1986年の米国サリー2号機のような突然の配管破断事故に発展する危険性がありました。乱流による減肉という原因もサリー2号機と同様であり、このような減肉は予測可能な範囲にあったはずです。
- ところが、関西電力は検査協力会社を変更した際、前の担当会社にデータの提出を求めなかったというミスを犯し、そのため、減肉が進んでいるのに11年間も検査をしないまま放置したのです。これで、品質保証体制が整っていると言えるのでしょうか。
3.再処理の行方に係わるコスト試算隠し
現在、再処理の行方はコスト面から大きな議論の焦点になっています。六ヶ所村再処理工場の費用だけで約19兆円もかかることが初めて明らかになり、それを税金または電気料金で国民に負担させるというからです。実際の再処理全体の費用は40兆円に達するという試算もあります。
ところが、再処理をせずに直接埋設処分を選ぶと、ずっと少ない費用で済むという試算があったのに、それが隠されたまま再処理路線を突っ走ったことが明らかになりました。膨大な再処理費用の負担を国民に強いるのに、そのコスト試算の資料を隠していたことが大きな政治的問題として浮上しています。
このような試算の元データは当事者である電力会社から出るはずのものです。その電事連も独自の試算をしながら隠していました。その試算には関西電力ももちろん加わっていました。試算隠しが明るみにでたことによって、再処理路線への疑惑が加速されたと言えるでしょう。
このような状況の下で、原子力長期計画策定会議の中に小委員会が設置され、その結論を踏まえて9月ごろから策定会議でもこの問題が議論されようとしています。
プルサーマルが再処理の行方と不可分の関係にあることは、昨年8月5日の原子力委員会決定によって定式化されています。再処理をめぐる現在の論議の状況を踏まえれば、当然にして、プルサーマルの準備作業は凍結すべきではないでしょうか。
4.コジェマ社がBNFL事件の二の舞を踏まないことは保証されているのか
関西電力が7月12日に提出した報告書「海外MOX燃料調達に関する品質保証システム監査結果について」では、特にBNFL事件の二の舞を踏まないことが重視されています。しかし、この重要な点が実際に保証されているかどうかには、疑問が生じます。
事実、「BNFL問題再発防止対策の確認結果」では、製造期間中に実施する現場確認やデータチェックに関して、コジェマ社の品質保証システムの中に「反映される枠組みがあり、本契約締結後にその具体的内容が規定され、実施されることを確認した」と書かれています。この記述からすれば、実際の保証は本契約締結後になされるということではないでしょうか。BNFL事件の再発防止の保証もないのに本契約を結ぶことはやめるべきではないでしょうか。
5.BNFL事件当時の桑原原子燃料部長の陳述書内容は総括されているのか
1999年のBNFL事件では、品質保証検査においてデータ不正が行われていました。判断のもとになるデータに不正があった以上、品質を保証することなどできないし、安全性が保証されていないと考えるのは当然のことです。しかし、今に至るまで関西電力はこの点を認めていません。
過去の過ちに対しては真摯に反省し、その教訓を生かすこと以外に信頼を回復することなどあり得ません。しかし、関西電力は事件の責任を曖昧にしたまま、新たなMOX燃料装荷のための品質保証体制が整ったと繰り返し主張しています。つまり、「今回は大丈夫」というのではなく「今回も大丈夫」と言っているに過ぎないのです。
このことを象徴するのが、現在、原子力事業本部副事業本部長として推進の先頭に立つ桑原茂氏です。彼は事件当時、原子燃料部長としてデータ不正事件に直接の責任を負うべき立場にありました。安全保証のあり方をないがしろにした張本人が、誤りを認めることなく再び事業の先頭に立っていることに、関西電力の「企業文化」が如実に表れています。そこに住民の不安に応える謙虚な姿勢など微塵もありません。関西電力はモラルハザードの最前線に立っていると言わざるを得ません。
データ不正に対する桑原氏の姿勢は、大阪地裁における「MOX燃料使用差止仮処分命令申立事件」に提出した2度の陳述書(1999年11月29日と12月10日)にはっきりと記されています。その誤りは関西電力が自ら発表した「最終報告書」からも裏付けられます。常識的に考えれば、責任を問われ処分されて然るべき人物が、再び事業の責任者になっていることは、関西電力の「反省」がいかに口先の上辺だけのものであるかを端的に物語っています。
新しいMOX燃料の安全性が問題になっている現在、関西電力は2度の陳述書における桑原氏の主張について、次の2点に関する誤りを改めてきちんと認めるべきです。
- データ不正に関する情報を入手していながら、裁判という公的な場で、高浜4号用MOX燃料についてデータ不正はないと断言し、世間を欺いたこと。
- BNFLが自らの都合で行った全数自動測定だけで仕様は満たされるとの誤った規定を持ち込み、それでもって事実上、品質保証検査に不正があっても安全性は保証されるかのような誤った見解を主張したこと。
このうち(2)の立場は品質保証検査の意義を低めるものであり、そのような見解に現在でも立ったまま、新たな品質保証体制が確立されたなどというのは笑止千万と言わざるを得ません。
以上指摘した点について、貴職として改めて再検討された上、危険なプルサーマルの推進にストップをかけてくださるよう、再度強く要望いたします。
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