京都府下の原子力災害避難計画に関する申し入れ
京都府知事 山田 啓二 様
2月1日、京都府防災会議は、避難先を風向きによって2方向想定した、30km圏内住民の避難先を決め、これによって原子力災害による避難が現実味を帯びたものとなりました。
風向きによって避難の方向を西、南いずれかの選択とされたこと、福井県から流入する避難者数と併せてひとまず避難者の総数を示されたこと、全員の脱出に要する予想時間や手段を概略示されたことなど、多大なご努力によって京都府全体の避難の具体像が初めて示されたことは前進であると理解します。
しかしながら、計画の前提となっている国の指針には大きな矛盾や不適切な想定、未定の問題が多々あり、京都府のご努力にもかかわらず、現状のままでは京都府民の安全を確保する避難計画には遠いと言わなければなりません。業務過多の中、尽力されている現実に感謝と敬意を表しますとともに、下記の問題点をご検討いただき、国に対して申し入れるべきは申し入れて、府民の安全のため引き続き尽力をお願いしたいと存じます。
1.避難の範囲30�は狭すぎます—避難の範囲を広げて下さい。
防護の基準(避難基準)が明らかでないまま、30kmという数字が独り歩きしています。福島では30kmをはるかに超える地域も避難地域となりましたがこの事実は反映されていません。
SPEEDIや滋賀県のシミュレーションによっても、さらにはMACCS2の汚染予測(100%値)でも、避難対象地域は実際には30kmをはるかに超えています。
特に100%値による予測では、京都北部は週250mSv、京都市でも週100mSvとなり、この結果、京都府が想定する受け入れ地域の多くは避難者を受け入れるどころか、自ら避難を余儀なくされることが予想されます(1月16日の、住民と規制庁との交渉では、この予想図に対する規制庁の反論はありませんでした)。
例えば、京丹後市は宮津市民や伊根町の住民が西に逃げる場合の避難先とされていますが、当の京丹後市は全市避難を想定しています。そうなれば京丹後市民が全員避難した後に宮津市民が入って暮らすことになります。また、60km圏である亀岡市や京都市も受け入れ先とされていますが、やはり避難対象地域となる可能性が高く、京都市もその可能性を排除していないと聞きます。
亀岡市を例にとれば、亀岡市が避難先だとされた綾部市民6400人、福知山市民3000人を加えた10万人の避難先は、緊急事態の中で急きょ確保できるのでしょうか。そういう事態は起きないとされるのでしょうか。
福島では30km圏の外でも毎時20μSVを超える値が何度も記録されています。規制委員会が作成した『防災措置のフローの例』でも、UPZ外で『OIL2超』は想定されており、そうであるならば事前にそれらの地域でも避難の備えをしておくべき、すなわちそれらの地域もあらかじめUPZに含めておくべきだと思います。政府は実際のところ『OIL2超』が起こり得る地域をどの範囲だと想定しているのか、京都府から確認していただけませんか。
2.週50mSvは高すぎます—基準の大幅な引き下げを国に求めて下さい。
3・11以後に作られた京都府の暫定計画では、避難の基準は年20mSv(毎時3.8μSv)でした。これは幼児・児童・生徒が校庭・園庭で活動する際に制限を加えるべき目安に準拠し、避難をする際にも一定の被曝は避けられないことから、その危険を最小限にとどめるために何らかの歯止めが必要なので、とりあえずこの基準を採用したと伺いました。その極めて常識的な判断に照らして、やはり週50mSvは高すぎます。
しかも現実の避難計画策定に当たっての基準値は、規制庁事務方の案である週50mSvですらなく、週100mSvが前提となっています。
福島の現実では指定区域外の自主避難者にはまともな補償がなく、この先例を見れば、多くの住民は現在地にとどまって、高線量のもとで被曝しながら生き続けるしか選択肢はないことになります。福島での深刻な被害を繰り返さないために、住民を被曝から守ってください。
3.PPAの設定とヨウ素剤の配布・管理について、配備出来るよう指針をお示しください。
国は、PPA圏(プルームに備え、ヨウ素剤を配布する地域)をUPZの外に設けるとしながら、具体化していません。ヨウ素剤はプルームが来る前に適切に服用しなければ効果がありませんが、現在のところ配備・保管の方法が示されていません。
UPZ圏を拡張するとともに、PPA圏の範囲を設定し、ヨウ素剤の扱いを定めて、速やかに配備出来るよう指針をお示しください。
4.大飯原発を止めて下さい。
避難計画が立たない間も、大飯原発は稼働し続けています。活断層の3連動が起きれば制御棒の挿入が間に合わないと指摘されているだけでなく、新しい安全基準を満たせないことから大飯原発は定期検査を待たずに休止させられると報道されています(2月1日、東京新聞)。大飯原発は9月の定期検査や7月の停止を待たず、ただちに停めるべきです。京都府民の声を受け止め、稼働停止を国、関電に求めて下さい。
5.関西電力と安全協定を結んで下さい。
関西電力は、大飯原発の再稼働が電力不足のためではなく自社の経営のためであることを認めています。他の電力事業者と比べても突出して原発に依存してきたことを反省せず、3.11以降も原発依存の姿勢を変えていません。中長期的な自然エネルギーへの転換に消極的なだけでなく、短期にもガスコンバインドサイクルなどの効率的で安価な発電への切り替えを怠ってきた結果、高い燃料を購入することとなり、経営責任を取るどころかその付けを消費者に押し付けようとして、電気代の値上げを迫っています。
安全よりも経営を優先する関電に対し、安全協定を独占的に結んでいる立地自治体は、関電のこのような姿勢を容認しています。私たちは、安全の側に立って稼働や再稼働を判断する権限を、隣接被害自治体が確保しなければ安全を保てないと考えます。
今こそ関電に対し、立ち入り調査権や、稼働に対する同意権を含む安全協定を結ぶよう求めて下さい。
6.引き続き、北部各自治体を支えて下さい。
京丹後市や宮津市は、独自に全市避難を打ち出していますが、規制庁は30 km圏を超える避難計画でも否定しないと言っています。ぜひ後押しをして、避難範囲の拡大設定を積極的に認めて下さい。
ご承知のように、各自治体は京都府同様3月18日施行の義務を背負いながら策定に苦慮されています。たとえば屋内退避が指示されている間、要介護・要支援者は誰がどのように介護・支援するのか。屋内退避はプルームが通過するまでの間、被曝を避けることが目的ですが、介護者・支援者はプルームの通過中でも要介護・要支援者の家に赴き、あるいは送迎するのか、退避期間中の介護・支援は家族が負うことになるのか、答えを頂けない自治体があります。
また宮津市は、過酷事故が起きれば市の災害対策本部を立ち上げ、自治会長に避難対策本部の設置を要請し、ここではじめて住民基本台帳および市の災害対策本部が別に搬送対応を行う方の名簿を示して、避難対象者の把握、要支援者と自力避難者の振り分けなどをおこなってもらうとされています。総務省は、住民基本台帳の平時閲覧等の目的外使用は違法だと言っていますが、平時に把握しておかなければ避難が長引き、被曝の恐れも高まります。個人情報保護という名分のために本来保護されるべき人が被害を受けかねないことに苦慮されていますが、法改正を求めるなどの支えが必要ではないでしょうか。
7.規制庁が、京都府に来て府民に政府の防災計画の説明をするよう、要請してください。
2013年2月7日
京都府民有志一同