水銀条約を“水俣条約”と命名するとの日本政府の提案に対する 水俣被害者団体及び支援者団体の声明
2011年1月23日
水銀条約を“水俣条約”と命名するとの日本政府の提案に対する
水俣被害者団体及び支援者団体の声明
水俣病は現在も継続している悲劇である。国際社会が水銀条約について協議するときに、日本政府はまず、国内の水俣病問題に向き合うべきである。55年にわたりこの大惨事と闘ってきた我々は、水銀条約を“水俣条約”と命名することについて、この悲劇にきちんと向き合い、本質的解決の道筋が示されない限り、反対する。日本政府は、2013年の外交会議以前にその姿勢を糺し、水俣から何を学んだのかを明らかにし、そこで学んだことを実施し、解決に向けて具体的に歩み出していなければならない。
日本政府は、次のことを誠実に実施しなくてはならない。
1、水俣病被害の全容を解明すること
公式確認から55年を経て、未だ水俣病の被害の実態は解明されていない。汚染された不知火海沿岸全域にわたる健康調査が不可欠であるとともに、被害地域住民の継続的調査をおこなわなくてはならない。昨今、提起されている低レベルの水銀汚染でも子供たちに影響を与えるとの研究成果を踏まえた調査や施策も必要である。
2、全ての被害者へ補償すること
2004年10月最高裁判決によって、国、熊本県の水俣病拡大に関する加害責任が確定した。また、認定基準をめぐっては、その判断条件に「医学的根拠がない」との大阪地裁判決も出ている。司法判断を遵守し、すべての被害者を水俣病被害者と認め、補償をおこなわなくてはならない。
3、汚染企業を擁護するのでなく、「汚染者負担の原則」が確実に実施
されることを保証すること
2009年7月水俣病特措法により加害企業チッソの分社化が認められ、手続きが進行している。汚染企業としての加害責任からの逃亡は許されない。汚染者負担原則を踏まえ、加害企業に責任を継承させなくてはならない。
4、水俣及び不知火海の水銀汚染を浄化すること
水俣湾及び不知火海はチッソ水俣工場からの数百トンの水銀によって汚染された。また、水俣市内に多数の汚染場所が存在する。それらの完全浄化が不可欠である。また、水俣湾埋め立て地は有害メチル水銀の一時保管場所であり、抜本的な浄化とは言えない。大量の水銀汚染が無視されているまさにその場所で“水俣条約”のための儀式が行なわれることは滑稽である。政府は、浄化への道筋を示さなくてはならない。
5、被害者が地域社会で安心して暮らしていける医療や福祉の仕組みを確立すること
胎児性被害者をはじめ、多くの被害者が医療や福祉に多くの不安を持ちながら、日々を暮らしている。
被害者にとって、金銭補償によって問題が解決するわけではない。病と闘い、重症患者の介護を続ける被害者達が安心できる医療や福祉の仕組みが不可欠である。
これら課題は決して、水俣だけの問題ではない。日本においては第2の水俣病の犠牲地となった新潟をはじめ、世界には多数の水銀汚染箇所が存在する。また、様々な水銀汚染が現在進行している。この水俣の教訓が生かされてこそ、水銀条約は大きな意味を持つものであると私たちは信じている。水俣の悲劇は水銀で汚染された魚を食べたことで起きた。私たちは、魚を再び安全に食べられるよう世界の水銀汚染が十分に低減される水銀条約を強く望む。
以上
署名は、下記 署名団体(順不同)
- 水俣病互助会
- 水俣病不知火患者会
- 水俣病被害者互助会
- NPO法人水俣病協働センター
- アジアと水俣を結ぶ会
- グリーン・アクション
- チッソと国の水俣病責任を問うシンポジウム実行委員会
- 東京・水俣病を告発する会
- 「季刊・水俣支援」編集部
- 水俣病東海の会
- 東海地方在住水俣病患者家族互助会
- 名古屋・水俣病を告発する会
- アジア太平洋資料センター(PARC)
連絡先:
水俣病不知火患者会
〒867-0045 水俣市桜井町2-2-20
Tel/Fax: 0966-62-7502
E-mail: shiranui-v@drive.ocn.ne.jp
水俣病被害者互助会事務局
〒867-0023 熊本県水俣市南福寺108
Tel/Fax: 0966-63-8779
E-mail: ezg01444@nifty.ne.jp