「もんじゅ」運転再開 NPT再検討会議参加国への書簡
日本の高速増殖炉「もんじゅ」運転再開
核不拡散、原子力安全性、エネルギー供給にとっての意味合い
5月6日、ナトリウム漏れ・火災事故により14年以上運転停止となっていた日本の高速増殖原型炉「もんじゅ」(1)の運転が再開されました。これまでにない形で国際的関心が核軍縮、核不拡散、核セキュリティーに集まっているこの時点でプルトニウムを燃料とする高速増殖炉の運転が再開されるというのは、大きな皮肉です。私たちは、「もんじゅ」の運転再開の意味合いの幾つかについて、とりわけ、核拡散、原子力の安全性、エネルギー供給との関係について、各国代表の注意を喚起したいと思います。
核拡散にとっての意味合い
高速増殖炉の核拡散面での重要な問題は、プルトニウムを使用し、生産するということにあります。プルトニウムは、核兵器を作るのに使えます。日本の高速炉プログラムは、プルトニウムを燃料として使い、そして、消費するよりも多くのプルトニウムを「増殖」することを計画しています。(2)
日本の原子力発電事業者は、IAEAの保障措置下にありますが、「もんじゅ」のような高速炉の運転を支えるのに必要なプルトニウム大量取り扱い施設(再処理工場やプルトニウム燃料製造プラント)に対して転用防止のための効果的な保障措置を講じることは不可能です。しかも、IAEAは、このような施設においては、物質計量管理の手法の使用だけによってその査察目標を達成することはできません。実際、「もんじゅ」の初期装荷炉心を製造するのに使われたプラント「プルトニウム燃料第3開発室(PFPF)」では、70kgのプルトニウムが行方不明となり、数値の食い違いの問題を解消するためにプラントを数年間閉鎖しなければならないという事態が生じました。
日本はすでに47トン以上の分離済みプルトニウムを保有しており、その10トン近くが日本にあります。残りはヨーロッパに置かれています。六ヶ所再処理工場が、その最大能力で運転されるようなことになれば、毎年、使用済み燃料から8トンのプルトニウムがさらに分離されることになります。日本は、このプルトニウムの一部をMOX燃料として軽水炉や高速炉の「常陽」と「もんじゅ」で使うことを計画しています。しかし、日本はプルトニウムを分離し続けますから、日本が蓄積した核兵器利用可能の大量のプルトニウムがなくなること、それどころか、消費に見合ったものになることも近い将来にはありそうにありません。
民生用核燃料サイクルにおけるプルトニウムの使用は、核テロリズムのリスクも高めます。ワシントンで開かれた核セキュリティー・サミットが2010年4月13日に出したコミュニケは、「高濃縮ウランと分離済みプルトニウムは、特別の予防措置を要する」との認識を示しました。しかし、これらの物質は、どちらも、核兵器を作るのに使われるにも関わらず、ここではプルトニウムと比べ、高濃縮ウランの使用に関連したリスクの方にずっと高い関心が払われています。実際は、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」のギャレス・エバンズ共同議長が指摘しているように、サミットは、プルトニウムに関連した問題にもっと注意を払うべきでした(3)。プルトニウムに比較的限られた注意しか払われなかったのは、日本を含む米国の同盟国の一部がその原子力プログラムにおいてプルトニウムを使っているためであることは間違いありません。
プルトニウムを分離し、再利用するという日本のプログラムに関連した直接的リスクに加え、日本が示す例は、他の国に対して、プルトニウムに基づく原子力プログラムを追求することを奨励することになります。しかし、プルトニウムの広範な利用は、原子力の民生利用に関連した核拡散リスクを劇的に高めることになります。5月7日にこのNPT再検討会議に対してなされた原子力に関するNGOの発表で指摘されている通り、
使用済み燃料の再処理によるプルトニウムの分離と世界的プルトニウム経済の創出は、問題を悪化させます。核兵器を退役させるとのNPTのコミットメントと根本的に矛盾し、これに反するものです。なぜなら、それは、核兵器利用可能物質を直接世界の通商に投入することになるからです(4)。
蓄積された民生用プルトニウムは、NPT体制に深刻な不安定をもたらします。上述の通り、分離済みプルトニウムに対して効果的な保障措置を講じることは不可能です。分離済み「民生用」プルトニウムを持つ国は、どれも、NPTの義務から抜け出すとの選択をすれば、核兵器の生産から、短時間——数日から数週間——しか離れていない位置にいることになります。
原子力の安全性及びエネルギー供給にとっての意味合い
プルトニウムを使う高速増殖炉は、エネルギー供給の確保のために必要のないものです。実際、実績から言って、高速増殖炉はエネルギー供給という点でまったく当てになりません。日本のプルトニウム燃料サイクル、そして、他の国々におけるプルトニウム燃料プログラムの歴史は、重大な安全上及び経済上の問題のために、高速炉は信頼性のあるエネルギー供給源となり得ないことを示しています。研究開発に資金をつぎ込み続けることは、他の安全で、確実な、そして、経済的に実施可能な他の供給源の開発を阻止することになるだけです。
「核分裂性物資に関する国際パネル(IPFM)」の最近の報告書は、高速増殖炉の問題を次のように要約しています。
本報告書にある各国のケース・スタディーを見ると、ハイマン・リッコーバー提督が1956年に行った次のような総括に反論するのは難しいことが分かる(提督の総括は、初期の米国の原子力潜水艦の動力にするために開発されたナトリウム冷却炉に関する自身の経験に基づくものである)。このような原子炉は「建設費用高くつき、運転が複雑で、わずかな故障によっても長期の運転停止になりやすく、そして、修理が困難で時間がかかる(5)。」
同じIPFMの報告書の中で、鈴木達治郎が日本の高速炉プログラムについて次のように論じています。
日本は、公式には高速増殖炉と閉じた燃料サイクルにコミットし続けている。しかし、高速増殖炉の商業化達成時期の目標は、将来に遠ざかり続ける一方、高速増殖炉の研究開発予算は縮小し続けている。高速増殖炉に対する日本の継続的コミットメントは、主として、軽水炉の燃料サイクルのバックエンドの管理と研究開発管理に影響を与える社会・政治的要因によってもたらされているようである。
日本には「もんじゅ」に対する相当の反対があります。「もんじゅ」の運転再開の前に29人の日本の学者が署名した声明を添付してあります。声明は、特に、安全性と「もんじゅ」の所有者・運転者である日本原子力研究開発機構の組織的体質に関連した問題について触れています。1995年のナトリウム漏れ事故から14年経ってはいますが、これらの問題が正されたかどうか、極めて疑わしいところです。
結論
日本の高速炉・再処理プログラムは、日本のエネルギーの必要を満たすのに役立ちません。同時に、それは、核兵器利用可能物質の拡散をコントロールしようとする努力を複雑にし、潜在的拡散者に対し、そのプログラムを正当化するための口実を与えます。日本は、核軍縮・不拡散において先頭に立っていると自認していますが、高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開は、その主張に疑問を抱かせるものです。
提案
以上概説した問題に鑑み、私たちは、2010年NPT再検討会議参加の各国代表に対し、以下の通り、要請します。
1)日本政府に対し、その高速増殖炉・再処理プログラムを放棄するよう呼びかけること。
2)民生用プログラムを含む「包括的核分裂性物質禁止」条約を支持すること。
2010年5月19日 於ニューヨーク
注
1.「もんじゅ」は、日本の主要な島、本州の日本海側にある福井県敦賀市にある。電気出力28万キロワット。
2.高速増殖炉が「増殖」モードで使用される際、プルトニウムは、炉心の回りに置かれた劣化ウランのブランケットで生産される。ブランケットで生産されたプルトニウムは、核兵器生産にとっても最も好都合なプルトニウムのアイソトープであるプルトニウム239の含有率が98%になる。このプルトニウムを分離するのは比較的容易い。なぜなら、劣化ウランのブランケットは、通常の使用済み燃料ほど、強い放射能を持つ核分裂生成物に汚染されていないからである。
3.『ニュークレオニクス・ウイーク』誌(2010年4月15日)のランディー・ウッズとレニー・マッケンジーによる記事「核サミット、新しい条約を伴わない防護強化を追求」からの抜粋。
4月12日、ワシントンでの発言において、不拡散問題の専門家ギャレス・エバンズは、世界の指導者達はプルトニウムの重要性を見失うべきではないと警告した。「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長を務めるエバンズは、「核分裂性物質作業グループ(FMWG)」——40人以上の不拡散問題の学者・活動家のコーリション——の主催するワシントンでの会合で発言した。
「十分な速さではないにしろ、高濃縮ウランの使用が減少する中で、プルトニウム、とりわけ、混合酸化物の形でのものは、その使用が広がっている」と彼は述べた。
4.2010年NPT再検討会議で発表された原子力と核不拡散条約4条に関するNGOのペーパーは、次のリンクで入手できる:
http://www.reachingcriticalwill.org/legal/npt/revcon2010/ngostatements/NuclearEnergy.pdf
5. Fast Breeder Reactor Programs: History and Status[高速増殖炉プログラム:歴史と現状], 「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」の報告書(2010年2月、p.3)
http://www.fissilematerials.org/ipfm/site_down/rr08.pdf
6.同報告書、p.60。鈴木達治郎は、この記事の執筆後、日本原子力委員会の委員長代理に任命された。
書簡の署名団体(アルファベット順):
国際
グリーンピース・インターナショナル
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)
日本
原子力資料情報室
FoE Japan
グリーン・アクション
グリーンピース・ジャパン
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)
環境エネルギー政策研究所
ピースボート
韓国
市民環境研究所(CIES)
エネルギー ジャスティス アクション
グリーン コリア ユナイテッド
韓国環境運動連合(KFEM)
韓国女性団体連合(KWAU)
韓国女性環境ネットワーク(KWEN)
平和ネットワーク
参与連帯(PSPD)
蔚珍(ウルチン)社会政策研究所
ヨーロッパ
放射能に汚染された環境に反対するカンブリア住民(CORE) 英国
ミュンヘン環境研究所 ドイツ
オーストリアエコロジー研究所
世界エネルギー情報サービス(WISE) オランダ
米国
地球の友(FoE)US
グリーンピースUSA
不拡散政策教育センター(NPEC)
核情報資料サービス(NIRS )
社会的責任を考える医師の会(PSR)
憂慮する科学者同盟(UCS)
学者有志一同による「もんじゅ」運転再開に反対する声明
http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=895
核拡散防止条約(NPT)再検討会議各国代表宛に書簡
高速増殖炉と再処理計画の放棄を日本政府に求めるなど要請
Download PDF version (193KB)