福井県知事への要望書:美浜3号機の運転再開に待ったをかけてください

2007年1月9日

福井県知事 西川一誠様

関西電力は昨年12月21日に、美浜3号機の原子炉起動を今年1月10日頃に行い、1月11日頃には並列(調整運転開始)にすると発表しました。私たちはこのような運転再開に強く反対するものとして、起動に待ったをかけていただくよう貴職に要望いたします。

美浜3号機事故は5名もの死者を出した国内最悪の事故でした。運転再開について、ご遺族の方々の了解は必ずしも得られていないと報道されています。関電は貴職に昨年5月10日、協議の申入れを行い、貴職は5月26日に運転再開の了承を行っています。しかしその後、関電が実際に運転再開に踏み切れなかった背後には、ご遺族の強い懸念が存在していました。このことは衆知の事実です。この事実が変わらないにもかかわらず、関電はご遺族の意向を汲むこともなく、見切り発車しようとしています。貴職としては、この了解が今でも得られていないという事実を、何よりも重視すべきではないでしょうか。

関電が昨年5月10日に協議の申入れを貴職に行った際、添付資料として「美浜発電所3号機事故 再発防止対策について」を提出しています。しかし、「再発防止対策」の前に、関電が未だ事故原因を十分に把握できていないという問題があるのではないでしょうか。私たちはこの点について関電に詳細な質問書を提出し、当該箇所が点検リストから漏れているのをなぜ把握できなかったのか、他の電力会社では把握できたのになぜ関電にはできなかったのかの確認を求めました。しかし無責任にも、「記憶にございません」というのが関電の回答だったのです。これでは、「再発防止対策」以前の事故原因の問題が未だに残っているということではないでしょうか。

この点、県警による判断がこれから出されるところであり、県民や全国の人々はそこに注目しています。その前に炉を起動してしまうというのは無謀なことではないでしょうか。

関電が5月10日に出した前記「再発防止対策について」の総合評価では、「PDCA(計画-実施-評価-改善)が回り始め、定着しつつある」、「配管刻印問題やトラブル多発等の問題を踏まえて、当初計画の再発防止対策が強化・充実されており、成果も上がりつつある」と自ら評価しています。しかし、このような評価なら、どのようなトラブルもすべてPDCAが回る中に入れられてしまい、原因究明や体質の改善は放棄することになるでしょう。

事実、直後の5月16日に原子炉内から汲み上げた冷却水が400リットルも漏えいする事故が起こりました。関電は作業前ミーティングに社員も積極的に参加していると新聞の全面広告などで大々的に宣伝しています。にも係わらず、この日のミーティングには参加していなかったことを、11月29日の私たちとの交渉で認めています。ところが、5月19日付け記者発表ではこの事故の原因について、作業責任者(三菱重工社員)の責任を問うだけで、自らの責任には一切触れていません。

さらに、最近になって関電の企業文化・体質が改善されていないことを示す2つの重要なデータ改ざん事件が明るみにでました。水力発電用ダムのデータ改ざんでは、改ざんの度合いは全国的に見ても断然トップの位置を占めています。また、大飯3・4号機では、温排水データについて温度差を小さく見せるような改ざんが行われていました。とくに大飯4号機では、復水器出口温度より放水口温度の方が高いというあり得ないデータを、原因を調べることもなくただ同じ温度に改ざんするだけで済ませていました。この改ざんについて関電は昨年12月14日に「温排水データに関する調査については、引き続き行っていきますが、当社としては、今回の事実を重く受けとめ、十分な原因究明を行った上で、再発防止に努めてまいります」と述べています。しかし、この両事件とも原因究明は未だなされていません。「重く受けとめ」るのであれば、安全協定に係わる問題であるために当然、原因などについて貴職に説明し了解を求めることが優先されるべきではないでしょうか。

このような企業文化に係わる問題が解決しない以上、昨年5月26日の貴職の了解は白紙に戻されるべきです。それゆえに、1月10日頃の美浜3号機の炉起動には当然にして待ったがかけられるべきです。そうでないと、ご遺族でなくても、誰しも納得がいかないでしょう。

関電は美浜3号機の起動を前にして、早くもデータの公開を拒む態度に出ています。これまで配管のスケルトン図を市民にも公開していたのに、これからは公開できないと通知してきたのです。安易な運転再開の容認はこのような情報の非公開を認めることにつながることを懸念します。

美浜3号機運転再開に待ったをかけるべき理由

  1. 遺族の了解を得ていない。関電は運転再開の条件として遺族の了解を得ると約束していた。
  2. 事故の原因が未だ十分に究明されていない。「再発防止」以前の状況だ。
  3. 県警の判断を待たずに運転再開を行うのは無謀。
  4. 関電の「再発防止対策について」に述べられているPDCA(計画-実施-評価-改善)は、原因究明や体質の改善を放棄することになる。
  5. 5月16日の原子炉内冷却水漏洩について、関電は自らの責任をとっていない。それなのに、作業前ミーティングには積極的に参加していると大々的に市民を欺く宣伝をしている。
  6. 最近関電の発電所(水力発電と原子力発電)で多くのデータ改ざんが明るみに出た。関電の改ざんの度合いは全国の電力会社のトップを占めている。特に原発の温排水データ改ざんについては、原因も未だ明らかにされていない。そのような企業姿勢での美浜3号機の運転再開は受け入れがたい。
  7. 運転再開を前にして、関電の情報公開が後退している。

美浜3号機は事故時に、利用率を考慮した実質的な年齢では関電のすべての原発の中で最高齢であり、この事故は貴職が事故原因で判断されたように、まさに老朽化が引き起こしたものでした。全体的に老朽炉に鞭打つ傾向が強まろうとしているとき、このような老朽炉を関電のような体質で動かすことは危険きわまりないことだと考えます。

貴職として、昨年5月26日のご判断以後の状況を十分に斟酌された上、美浜3号機の1月10日頃の炉起動に待ったをかけていだだくよう強く要望いたします。

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