日本原燃の点検結果報告書に関する原子力安全・保安院の評価(案)に対する質問書
原子力安全・保安院長 佐々木 宜彦様
日本原燃(株)(以下「原燃」)は,六ヶ所再処理施設の使用済燃料受入れ・貯蔵施設(F施設)や再処理本体における多数の不正溶接問題などについて総点検を行ってきました。その結果,今年2月13日に「再処理施設 品質保証体制点検結果報告書」(以下「点検結果報告書」)を貴院に提出し,それを審査した貴院の「評価(案)」が2月29日に出されました。その後,両文書の改訂版が3月10日の第10回「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下「検討会」)に提出され,さらに原燃の改訂版が3月17日に出されました。貴院は,評価(案)で原燃の点検結果報告書を基本的に容認し,ウラン試験に進むことを是認しようとしています。
しかし評価(案)には,本質的な事項について疑問があり,ウラン試験に進む事はとてもできない状況にあると思われます。以下,具体的に質問しますので,3月29日までに文書で回答してください。
またこの質問書は,内容が検討会の議題と直接関係していることから,検討会の委員にも送付しています。貴院の回答は次回検討会までに,委員にも配布することを要望します。
1. 貴院の初期通達の趣旨を貫徹してください
保安院の評価(案)では,「はじめに(点検に関する当院の基本的考え方)」で「再処理施設に対する安全規制(使用前検査,溶接検査等)の実施に加え,『再処理施設の健全性』が確保されている(再処理施設が設計通りに適切に建設・施工されている)かどうか,及び,今後,核燃料物質である劣化ウランを用いるウラン試験以降の試験運転に入っていくに当たり『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制が確立されているかどうかを,徹底的に点検,検証すべきであると考えた。」と述べています。つまりここでは,「再処理施設の健全性」,「及び」,「『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制」の両方が確立されているかどうかを点検,検証することにしています。このうち前者は,原燃が昨年9月9日付け点検計画書で立てた考えですが,後者は貴院が昨年6月24日付け通達で原燃に要求した課題です。その通達では,「その原因には同社全体における品質保証体制に問題があったと考えられることから,本日,同社に対し,別添2の文書により,施設・設備建設時の不適合処理等の品質保証体制について点検を行い,正しく機能しなかった原因の究明を行った上で,その結果について速やかに報告すること等の対応を求めました」と書かれています。また,この趣旨は検討会を設置するときの趣意にもなっています。すなわちこの通達や検討会趣意では「建設時の」品質保証体制,それに関する原因究明を問題にしているのですから,当然今回の貴院の「評価(案)」でも,将来のではなく建設時の品質保証体制を点検・検証の対象としているはずです。誰が考えてもそうでないと点検・検証をする意味がないことは明らかです。
この点について以下の点を質問します。
- 質問1.
- 貴院が「評価(案)」で点検・検証の対象としている品質保証体制とは,昨年6月24日通達に書かれているとおり,「施設・設備建設時の」品質保証体制であると理解してよろしいですか。もし違うときはいつの時点の品質保証体制なのか,理由を明記して説明してください。
- 質問2.
- 同様に,「評価(案)」で「『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制」と言われているとおり,品質保証体制は「事業者の信頼性」の基礎になると規定されています。そうすると,ここでいう「事業者の信頼性」とは,将来に影響するのは当然としても,やはりまず第一に建設時の事業者の信頼性を意味していると理解してよろしいですか。もし違うなら,理由を明記して説明してください。
2.原因究明からの帰結をぜひ尊重すべきではありませんか
貴院が昨年6月の通達で要求した前記の品質保証体制に関する原因究明については,検討会の中でも絶えず議論になり,原因究明がなされていないとの指摘が多くの委員から繰り返しなされてきました。それらの議論は昨年11月の評価意見に集約され,それを受けた原燃の12月10日付け修正点検計画では,根本原因分析を用いて原因究明を行うことにしました。
「不適切溶接」などの6事象から出発する根本原因分析による原因究明は,貴院が「評価(案)」で前記のように「再処理施設の健全性」と「品質保証体制」に分けたうちの品質保証体制の方に入っています。つまりこの原因究明は,貴院が昨年6月通達で要求した品質保証体制に関する原因究明の線に沿うものであると考えられます。
この原因究明の結果,原燃は品質保証体制に関する次の5点の「反省点」を導き出し,貴院もそれを妥当だと評価しています。
- 化学安全の観点及び不具合発生時の影響(補修の困難さ)を考慮した品質保証上の配慮が十分でなかった。
- 施行段階の品質保証の重要性に対する認識が十分でなかった。
- F施設施工時の人員配置に適正さを欠いていた。
- 協力会社と適切なコミュニケーションを行える体制の確立がなされなかった。
- (1)から(4)の事項に関して,トップマネジメントの関与が不足していた。
- 質問3.
- 貴院の昨年6月通達の趣旨からは,当然この5つの反省点は,「施設・設備建設時の品質保証体制」における欠陥を示していることになりますが,その理解でよろしいですか。もし違うときは,理由を明記して説明してください。
- 質問4.
- 製造時の品質保証体制に欠陥が見出された製品は回収,廃棄する,とのルールを適用しなければならない場合がありますが,安全上ささいな欠陥も許されない再処理工場施設については,これがより厳密に適用されなければならないのではないでしょうか。
3.工期(スケジュール)優先疑惑について明らかにされたい
不正溶接の原因究明において,工期(スケジュール)問題は,検討会で繰り返し議論されてきた重要課題でした。原燃は「F施設プールライニング工事の工期設定に無理があったかどうかについて,原子力発電所プールの工事量及び作業工数と比較することにより評価しました。その結果,・・・(略),工期の設定は妥当であったと判断できる」(資料7-2-1)と記述しています。ここで作業工数の基礎となる後張りライニング工事期間について,原燃は「約7ヶ月」としています(資料6-5)。ところが貴院から入手した「使用前検査成績書」の具体的事実からは,この期間は約7ヶ月ではなく,基本的に約3ヶ月であると判断できます。ライニング工事期間が約7ヶ月ではなく,約3ヶ月であったならば,原燃が重大な虚偽報告をしたことになり,不正溶接が行われた背景には,スケジュール優先問題が横たわっていたことになります。
また,原燃の根本原因分析では,ライニングの「板取」について,現場での(単に設計図どおりにするのでなく,実際のコンクリート躯体の測定結果に基づく)板取工程は存在したが,それが機能したかどうかはっきりしないとの判断を示し(資料7-2-3),基本的な責任を施行会社に負わせています。
ところが「使用前検査成績書」によれば,すでにミリ単位にまで切断されたライニングプレートのすべてが,コンクリート打設が完了する前に現場に搬入されたと判断できます。すなわち,現場での「板取」工程は最初から想定されていなかったということです。しかも,そのプレートを受け取っているのは,施行会社ではなく元請会社です。不正溶接に元請会社が直接関係していた可能性があります(別紙資料を参照してください)。
- 質問5.
- 貴院は原燃から,いくつかある各施設それぞれの工事内容と工期及び資材の調達に関する資料を入手し,検証を行いましたか。この工期と工程問題について貴院の見解を明らかにしてください。
4.「再処理施設の健全性」は確認されたのか
原燃が「健全性の確認」と称して行った点検は,書類点検が130日程度で27万件(1日2000件余り),現品点検が50日程度で16万件(1日3000件余り)というものです。これは,PWR燃料貯蔵プールの水漏れ箇所を突き止めるだけのことに1年4ヶ月(01年7月~02年11月),291箇所の不適切溶接が確認されるまでにさらに9ヶ月(~03年8月)を要したことと比較しても,あまりに拙速であり,このような点検で「健全性の確認」ができるのかどうか甚だ疑問です。
また,点検対象の書類自体に信頼性があるのかについても強い疑問があります。事実,第1回検討会において,貴院の薦田審議官は「今回のつらいところというのは,プールなんかで見ていますと,むしろ記録が信用できないという,記録があったとしても信用できないというところが多々見受けられるところがございまして」と述べ,さらに,信用できないというのは記載能力の問題かそれとも確信犯的な問題かとの神田委員の質問に答えて,「いやもう確信犯的なものですよね」と答えています。
- 質問6.
- 薦田審議官のいうように,今回の点検対象になった記録類には信頼性がないというのが貴院の捉え方ですか。
以下具体的な一つの事例に即して質問します。
使用済み燃料受入れ・貯蔵施設内の燃料送出しピットの北東壁部における漏えいは,昨年2月7日に発見されてから聞き取り調査では容易に真相がつかめなかったため,不正溶接が特定するまでに2ヶ月を要しました。漏えい箇所では,検知溝をつなぐ連絡溝が,設計図ではあるはずなのにつくられていませんでした。そのため,上部の先張りパネルを切り欠いて連絡溝をつくり,その切り欠いたパネル部分を溶接で埋め,それを隠蔽するためにグラインダで磨いていました。
原燃は,もっぱら同じような溶接箇所がないか調査し,138箇所を見つけています。しかし問題の本質は,なぜ設計図どおりに連絡溝がつくられなかったかの方にあるのは明らかです。この点,検討会資料7-2-3の根本原因分析では,なぜ連絡溝の加工を行わなかったかの第1原因として,「検知溝接続部の加工を省略した」と「検知溝接続部の加工を忘れた」の両方を並列しています。これは考えられる可能性を単に挙げただけで,第1原因は特定されていないことを示しています。最後の第5原因では,要するに従来の軽水炉プールとの構造の違いをわきまえていなかったからとなっています。さらに「改善策」では,このようなことが起こらないよう書類等に明記しておくこととなっていますが,これはプールを作り直す場合の改善策だと思われます。
それはともかく,「施設の健全性」において問題なのは,連絡溝がすべてつくられているか否かということでしょう。もし連絡溝がつくられていなければ,漏れが感知できないばかりか,漏れた水がパネルとコンクリートの間にたまってしまうことになります。
- 質問7.
- 連絡溝がすべてつくられていることは確認されているのですか。聞き取り調査の状況から,不正を行っていても関係者は沈黙している可能性が高いでしょう。もし確認したのであれば,現品で具体的にどのように確認したのか明らかにしてください。
5.原燃の情報隠蔽体質は全く変わっていないのではないか
私たちは今年2月4日に原燃に対し公開質問書を提出しました。1週間ないし10日以内での回答を求めましたが,回答が寄せられたのは約1ヶ月経過した後でした。しかも,「工期(スケジュール)が厳しかったとは言えない」という,不正溶接の原因究明に関る問題で,原燃の結論の裏付けとなる事実について尋ねたのに,回答は抽象的で,具体的な事実に触れるのを避けるものでした。そこで,別のより本質的な問題点について説明を求める文書を3月5日に提出した上で,3月8日に六ヶ所村の建設事務所を直接訪ねました。そのとき原燃は,前の質問に答えていない部分があるという単純な事実を認めるだけで面会時間の30分を要するという対応ぶりでした。また,3月5日付け質問への回答は4月末ごろまでは出せないと答えました。また別に原燃は,今年2月29日の検討会の席で,青森県民が説明会・討論会開催を要求したのに対し,3月9日にこれを拒否しています。
- 質問8.
- 第10回検討会では,委員から,原燃はディベートにも応じるべきとの発言があったことも踏まえ原燃の情報非公開の態度について貴院は指導を行うべきではないでしょうか。
6.あいつぐトラブルが示すもの
今年3月20日付デーリー東北紙は,再処理工場事務建屋から,配水管の接続ミスにより,基準を超える大腸菌を含んだ一般生活排水が尾駮沼に流れ込んでいたことが,19日に明らかになったと伝えています(原燃のホームページにも記載がありますが,「配管の接続ミス」については触れていません)。このような配管は,建築完了時にピンポン玉や色のついた水を流すなどして,設計どおりに排水されることを確認するのが通常です。大腸菌を検出してはじめて接続ミスに気づいたというのは,検査体制が極めて不十分であり,品質保証体制が機能していないことを示すものではないでしょうか。もし再処理本体施設関係で同様のことが起これば,放射能まみれの排水がそのまま外部に出るということになり,恐ろしい限りです。
- 質問9.
- 六ヶ所再処理施設では,総点検の最中にも上記を含めトラブルが続いていますが,このような品質保証体制は,とうていウラン試験に入ることなどできないのではないでしょうか。この点貴院の見解を伺います。
以上
なお回答は,グリーンピース・ジャパンまでお願いします。
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