意見書:原子力の後始末約19兆円という試算、また原発の後始末の諸問題を、あらためて徹底的に検証する必要があるのではないでしょうか?

総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会
会長 鳥居 泰彦 様
委員各位

コストから原発を考えるプロジェクト
2004年1月20日

「原発の後始末には,約19兆円かかる」−電気事業連合会からの試算を元に総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会がまとめた結果です。この報告を受けて、貴分科会で、これから、もっと税金を使ったほうが良いのか、その他の優遇措置を考えるのか、またその制度はどのようなものが良いかなどを検討することになっています。

私たち「コストから原発を考えるプロジェクト」は、消費者団体、環境保護団体、脱原発団体の連合体です。小委員会の報告について、また、議論のあり方について、以下、意見を申し述べます。

コスト等検討小委員会がまとめたように、「原子力発電全体の収益性等の分析・評価としては、他の電源との比較において遜色はない」ものであれば、原子力への優遇策は必要ないことは言うまでもありません。しかし、電事連の試算には、以下のような数々の疑問があります。危惧されることは、これらの諸問題が取り上げられないまま審議が進んでしまえば、今後コストが増大した時に、将来に大きな負担を押し付けることになることです。

具体的には、六ヶ所再処理工場の稼働問題があります。使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出してプルサーマル燃料にして使用するという核燃料サイクルは、国策ということで強引に進められてきました。しかし、ご承知のように、プルサーマル燃料の使用が住民や首長に拒否されているなど、核燃料サイクル政策は、事実上破綻しています。

そもそも、電源三法交付金制度に見られるように、原子力発電への優遇はすでに行なわれています。我が国の借金は中央政府と地方自治体とを合わせて約700兆円とされています。国の予算の半分弱を国債という借金に依存しています。このような財政状況の中、今必要なことは原子力政策の見直しであり、破綻を救済する優遇策を講じることではない、と私たちは考えます。安易に優遇策を作れば、「負担が顕在化した時に、なんであのときにそんな馬鹿なことを止めなかったのか」と強く問われることになるでしょう。

今回の審議では、再処理事業からの撤退を含めた検討を行い、撤退することが可能となる制度整備も検討するべきではないでしょうか。

そのためにも、コストの試算については、再処理開始をモラトリアム(一定期間延期)した場合、ワンススルー(再処理をせず使用済み核燃料を直接処分)した場合など、様々な選択肢について総合的な評価ができるようにすべきと考えます。以下に、将来において再処理/プルトニウム利用事業において、今回の試算が不十分である根拠を述べさせていただきます。

1) 費用見積もりがされていない項目がある
1−1) 再処理に伴って大量に発生する回収ウランの処理・処分費用

国の計画では,使用済み核燃料を再処理して取り出したウランとプルトニウムを使って,プルサーマル燃料を作って原発で燃やす計画となっています。使用済み核燃料のうち,1%しか占めないプルトニウムに対して,ウランは94%ほどもあり,プルサーマル燃料を作っていくとしても大量に余ります。しかし,使い道もないため、処理・処分しなければならないはずのこの回収ウランについて、保管費用しか計上されていません。

1-2) 使用済みプルサーマル燃料の貯蔵費用もしくは再処理費用

今回の試算は99年当時の「無限再処理」ではなく、3.2万トンの使用済み燃料の再処理を前提としています。既存のプルサーマル計画を進めることになっているので、そうすると,使用済みプルサーマル燃料の扱いを見積もる必要があるはずです。使用済みプルサーマル燃料の再処理は,六ヶ所再処理工場ではできません。試算は少なくとも使用済みプルサーマル燃料の貯蔵費用を通常の使用済み核燃料と別途見積もるべきです。

1-3) ウラン濃縮工場から出る劣化ウランの処理・処分費用

これは将来的にも利用する予定がありません。処理・処分する場合のコストを見積もる必要があります。

2) 再処理工場の40年間100%稼動は非現実的な前提

六ケ所再処理工場は年間800トンの再処理能力ですが,本格稼動以降は800トンの能力で40年間継続することになっています。コスト検討小委員会では±5%の感度解析を行なっていますが,東海再処理工場の極めて低い再処理実績(設備利用率は50%以下)を見ても、絵空事です。

3)見積もりの最低額と最高額の差が小さすぎ、説得性に欠ける

今回の試算では、見積もりに幅を持たせることになっていますが、低く見積もった場合は、17兆6千億円、高く見積もった場合は19兆4千億円となっています。その差は約1兆8千億円(約10%)しかありません。英仏の再処理工場建設費用も認識した上で見積もられた六ヶ所再処理工場の建設費は当初7千6百億円でしたが,現在では2兆1千億円(差は約280%)を越えています。なぜコストが増えたのか、その原因も検証してみるべきです。また、今回の見積もりでも、トラブルや事故も想定すべきでしょう。さらに、原発や再処理など放射線被曝を伴う事業では、被曝限度や、低放射性廃棄物を一般廃棄物として取りあつかうための基準であるクリアランスレベルの設定次第で、関係費用の額が大きく変わってきます。ECRR(放射線リスク欧州委員会)の2003年勧告は被曝限度を厳しくすることを勧告しています。将来的に被曝限度を厳しくしなければならない可能性が考えられ、その試算も必要ではないでしょうか。

十分な時間をかけてのより広く開かれた議論が必要であると思います。分科会では、上記のような問題点を認識しながら、積極的に、徹底的に審議をお願いします。

以上

関連資料
ECRR2003年勧告について(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会)

「コストから原発を考えるプロジェクト」は、消費者団体、環境保護団体、脱原発団体の連合体です。原発のコストの問題に焦点をあてて、市民や国会、電力会社などに、「もう、原発はやめていこう。他のやり方をすすめよう。」と呼びかけていきます。当面の課題として,原発コストを大幅に増やす核燃料の再処理は止めるべきであることをアピールし、原発に偏った経済的優遇措置や税金投入への動きを監視していきます。

呼びかけ団体(アイウエオ順)
核燃やめておいしいご飯、グリーン・アクション、グリーンピース・ジャパン(事務局)、原子力資料情報室、ストップ・ザ・もんじゅ東京、東電と共に脱原発をめざす会日本消費者連盟、ふぇみん婦人民主クラブ 福島老朽原発を考える会