日本のプルトニウム・プログラムは、核拡散防止体制を脅かすとノーベル賞受賞者らが警告:UCSプレスリリース

UCSプレスリリース
エンバーゴー 2005年5月5日米国東部時間11時

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リューク・ワレン 202─223─6133

国連への各国代表ら、再処理工場が年間核兵器1000発分のプルトニウムを生産できると告げられる。

ニューヨーク、国際連合 5月5日

UCSは、今日、論争の的となっている六ヶ所村プルトニム再処理工場の運転を無期限に延期するよう日本政府に呼びかけるステートメントを発表した。27人の著名な科学者・元政策立案者・アナリストらが署名したこの宣言は、日本の計画は年間8トンのプルトニウム──核兵器1000発分相当──を分離し蓄積することができるものであり、核拡散防止条約(NPT)を強化するとの日本の約束について疑問を抱かせると警告した。

さらに、署名者らは、この施設は、他の国々──イランや北朝鮮を含む──が核兵器計画に使われうる核燃料サイクル施設を追求するのを思いとどまらせるためになされている国際的努力の弊害となると述べている。このステートメントは、今日、国連のNPT再検討会議に参加している各国代表らに対するブリーフィングにおいて、発表された。

「六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延長することによってNPTを強化するようにとの日本への要請」というこの文書には、数人のノーベル賞受賞者、米国科学賞受賞者の他、米国の代表的な大学組織の著名な科学者らが署名している。さらに、署名者の中には、ウイリアム・ペリー元国防省長官、ピーター・ブラッドフォード元原子力規制委員会(NRC)委員、それに、共和・民主両党の政権のエネルギー省や国防省、国務省などの元高官らが名前を連ねている。また、米国の核兵器研究が行われているサンディア及びローレンス・リバモアの二つの国立研究所の元所長もこのアピールに署名している。

「われわれは、日本政府に対し、六ヶ所再処理工場の運転を開始するという挑発的な計画を見合わせることによってNPTに新しい命を吹き込むように要請しているのだ」と署名者の一人で「憂慮する科学者同盟(UCS)」理事長のカート・ゴットフリード・コーネル大学物理学教授は述べた。「もし日本が核兵器に使うことのできるプルトニウムの分離・蓄積に向けて突き進めば、北朝鮮やイランのような国に同様のことをするよう奨励するだけだ。」

総額200億ドルの六ヶ所施設は、核兵器を持っていない国における初めての工業規模の再処理工場である。照射済み燃料を使った初期テストの開始は2005年12月、操業開始は2007年の予定である。

日本は、2003年末に「余剰プルトニウムを持たない」との政策を宣言しているにも関わらず、そのプルトニウムのストックは、40.6トンに達している──5000発分ほどの量である。

「六ヶ所が運転開始となれば、2020年の国内保有量は、米国の兵器用ストックに匹敵するものとなる。」と物理学者で、プリンストン大学「科学・世界安全保障プログラム」のフランク・フォン・ヒッペル教授は述べた。「分離済みプルトニウムは、盗奪のリスクを引き起こす。このような大量のストックは安定を脅かす。」

訳注:

  • 翻訳は、UCSの公式のものではなく、ウェッブサイト「核情報」提供の仮訳。
  • UCSは、通常、「憂慮する科学者同盟」と訳されるが、「問題関心を持つ科学者同盟」の方が原語の意味に近い。
  • 署名者の肩書きの訳語については未確認のものもあるので注意。
  • 日本のプルトニウム保有量については、日本政府がIAEAに提出した文書の数字を使っている。四捨五入の関係で、日本で発表されている数字と若干異なる。日本での数字は、国内保有量5.5トン、ヨーロッパでの保有量35.2トン、計40.7トンとなっている(参照:我が国のプルトニウム管理状況[PDF Document 124KB])。

六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延長することによってNPTを強化するようにとの日本への要請(仮訳)

国際社会は、核兵器に利用できる世界の核分裂性物質──高濃縮ウラン(HEU)及び分離済みプルトニウム──の量の最小化を、優先順位の高いものにすべきである。それは、核軍縮と核不拡散を推進するとともに、テロリストが核兵器を手に入れるのを防ぐことにつながるだろう。しかし、日本は、工業規模の分離済みプルトニウムの製造者として、いくつかの核保有国の仲間入りをしようとしている。核不拡散体制がその最大の試練を迎えている時に、日本は、六ヶ所再処理工場の運転開始の現在の計画を進めるべきではない。

「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」の下における公式の核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)は、兵器用のプルトニウム生産を中止しており、HEUの生産については、いかなる目的のものも中止している。しかし、フランス、英国、ロシア、及びインドは、大規模な形で、民生用の発電用原子炉の使用済み燃料からプルトニウムを分離し続けている。

この活動の結果、民生用の分離済みプルトニウムの世界の保有量は増え続けており、2003年末現在で235トンに達している。この量の原子炉級プルトニウムがあれば、3万発の核兵器を作ることができる。それぞれが、広島・長崎の原爆と同等の破壊力を持つものとなる。また、いろいろ間違ったことが言われているが、テロリストも、民生用のプルトニウムを使って強力な核兵器──少なくともTNT火薬換算で1000トン(1キロトン)の破壊力を持つもの──を作ることができる。

ドイツ、ベルギー、スイスを初め、多くの国々が、予見できる将来、使用済み燃料からのプルトニウムの分離を中止することを決めている。分離にもっとも熱心な国の一つだった英国でさえ、数年内に全ての再処理をやめることになりそうである。外国と国内双方で関心が低下してしまったためである。実をいうと、英国の分離プルトニウムの量の増大の危険性を警告する声が、英国内の著名な人々から上がっていた。おそらくもっとも注目に値するのは、1998年に、英国王立協会が、社会的に安定している英国においてさえ、「プルトニウムのストックが、いつか、違法な核兵器製造のために取得されてしまうという可能性が、非常に心配される」と警告したことだろう(1)。

日本は、1997年12月1日、日本の核燃料サイクルは余剰プルトニウムは持たないとの原則に基づくと宣言した(2)。しかし、2003年末までに、日本のプルトニウム総保有量は、宣言当時の24.1トンから40.6トンに増えている。核兵器5000発ほどを作るのに十分な量である(現在約5.4トンが日本にあり、残りは、フランスと英国の再処理工場で日本のために保管されている)(3)。

この膨大な量のプルトニウムの存在にもかかわらず、日本の原子力発電業界は、六ヶ所村の新しい使用済み燃料再処理工場の商業運転を2007年に始めようとしている。使用済み燃料を使った試験は、2005年12月に開始予定である。六ヶ所工場は、その設計通りの能力で運転されれば、年に約8トンのプルトニウムを分離することになる。1000発の原爆を作るのに十分な量である。六ヶ所工場が運転されれば、日本の国内のプルトニウム保有量が大幅に増え、日本が宣言した余剰プルトニウムを持たないという目標の達成が何年も延期されることになる。さらに、余剰プルトニウムが大量にあるにもかかわらず六ヶ所を運転すれば、NPTを強化するという日本の約束について深刻な懸念をもたらすことになる。

六ヶ所工場は、核兵器を持っていない国における最初の工業規模再処理工場であるから、その計画通りの運転は、また、他の国々──イランや北朝鮮を含む──が再処理施設や濃縮施設を作るのを思いとどまらせるためになされている国際的努力の弊害となる。

日本は、核兵器国「クラブ」に加わらないという素晴らしい賢明さを示して見せた。私たちは、日本が分離済み民生用プルトニウムのストックの過剰をこれ以上増やさないとの決定をすることによって同じようなリーダーシップを示すよう願ってやまない。その意味で、2005年NPT再検討会議開催に際して、私たちは、六ヶ所再処理工場の運転を、さらには、放射性物質を使った施設の試験を無期限に延期するよう日本に要請する。

ピーター・ブラッドフォード
元米国原子力規制委員会(NRC)
ジョージ・バン
スタンフォード大学国際問題研究所顧問教授
核拡散防止条約(NPT)米国代表団法律顧問
元ジュネーブ軍縮会議米国大使
アシュトン・カーター
ハーバード大学
元国際安全保障政策担当国務次官補
ラルフ・アールII大使(退役)
SALTII条約交渉首席代表
スティーブ・フェター
メリーランド大学公共政策教授
ジェローム・I・フリードマン
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授・物理学教授
物理学ノーベル賞受賞者
リチャード・L・ガーウィン
コロンビア大学客員教授
米国科学賞受賞者
米国科学アカデミー及び米国工学アカデミー会員
シェルドン・リー・グラショー
ボストン大学アーサー・G・Bメトキャフ科学教授
物理学ノーベル賞受賞者
マービン・L・ゴールドバーガー
カリフォルニア工科大学名誉総長
ローズ・ゴットミュラー
カーネギー国際平和財団「世界政策プログラム」上級アソーシエート
元米国エネルギー省国防核拡散防止担当副次官
カート・ゴットフリード
コーネル大学物理学名誉教授
「憂慮する科学者同盟(UCS)」理事長
セリグ・S・ハリソン
ウッドロー・ウイルソン国際学者センター・上級学者
ジョン・P・ホルドレン
ハーバード大学ケネディー統治学部教授
元米国科学アカデミー国際安全保障・軍備管理委員会議長
レイモンド・ジャンロズ
カリフォルニア大学バークレー校地球物理学教授
スパージャン・M・キーニー・Jr.
元米国軍備管理軍縮庁副長官
リオン・レーダーマン
イリノイ工科大学科学教授
物理学ノーベル賞受賞者
マービン・ミラー
マサチューセッツ工科大学国際問題センター及び核工学部名誉上級科学者
アルバート・ナラス
サンディア国立研究所名誉所長
ウイリアム・J・ペリー
スタンフォード大学
元国防長官
ヘンリー・S・ローウェン
スタンフォード大学ビジネス大学院名誉教授
元国防次官補(1989─1991年)
アンドリュー・セスラー
ローレンス・バークレー国立研究所名誉所長
ヘンリー・ソコルスキー
核拡散防止政策教育センター事務局長
国防長官オフィス核拡散防止担当副官
レナード・S・スペクター
元米国エネルギー省国家核安全保障局軍備管理・核拡散防止担当補佐官
ジョン・D・スタインブルナー
メリーランド大学公共政策学部公共政策教授
メリーランド大学国際・安全保障問題センター所長
フランク・フォン・ヒッペル
プリンストン大学公共・国際問題教授
スティーブン・ワインバーガー
ジャック・S・ジョージー・ウェルチ財団科学議長
テキサス・オースチン大学物理学教授
物理学ノーベル賞受賞者
ハーバート・ヨーク
ローレンス・リバモア国立研究所名誉所長

注:

  1. Management of Separated Plutonium, (London, The Royal Society, 1998) Summary.
  2. International Atomic Energy Agency, Communication Received from Certain Member States Concerning their Policies Regarding the Management of Plutonium, INFCIRC/549/Add. 1, 31 March 1998. Available at“Communication Received from Certain Member States Concerning their Policies Regarding the Management of Plutonium” [PDF Document 24KB] (accessed March 14, 2005).
  3. International Atomic Energy Agency, Communication Received from Japan Concerning Its Policies Regarding the Management of Plutonium, INFCIRC/549/Add. 1/7, 23 December 2004. Available at“Communication Received from Japan Concerning Its Policies Regarding the Management of Plutonium” [PDF Document 40KB] (accessed April 20, 2005).

訳注:

  • 翻訳は、UCSの公式のものではなく、ウェッブサイト「核情報」提供の仮訳。
  • UCSは、通常、「憂慮する科学者同盟」と訳されるが、「問題関心を持つ科学者同盟」の方が原語の意味に近い。
  • 署名者の肩書きの訳語については未確認のものもあるので注意。
  • 日本のプルトニウム保有量については、日本政府がIAEAに提出した文書の数字を使っている。四捨五入の関係で、日本で発表されている数字と若干異なる。日本での数字は、国内保有量5.5トン、ヨーロッパでの保有量35.2トン、計40.7トンとなっている(参照:我が国のプルトニウム管理状況[PDF Document 124KB])。
  • 広島は、16キロトン程度。おおざっぱに言えば、広島・長崎は、約20キロトンレベル。

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