「グリーンピース・インターナショナル核問題担当:トム・クレメンツ氏を囲んで──日本のプルトニウム政策を国際的な視野で考える」講演概要
日本・世界の核軍縮・核拡散防止──プルトニウム拡散の「六ヶ所テスト」を前にして
トム・クレメンツ:グリーンピース・インターナショナル上級アドバイザー
このアーカイブは2005年3月24日に開かれた「グリーンピース・インターナショナル核問題担当:トム・クレメンツ氏を囲んで──日本のプルトニウム政策を国際的な視野で考える」の講演概要です。
はじめに
ここでこうしてみなさまにお話しさせていただけることについてお礼申し上げます。日本に来て、核軍縮と核拡散防止というタイムリーな問題についてみなさまとお話しできることはまことに光栄です。日本は、これらの両方の問題について重要な役割を果たすことができます。みなさまとこれらの問題について議論を深める機会をいただいて感謝いたします。
世界の誰よりもみなさまがご存じのとおり、広島と長崎で起きたことは、この60年間世界を悩ませ、また、鼓舞してきました。私たちは一人一人、あの悲劇的な原爆投下に関連して、また、あのとき以来世界の政治において核兵器が果たしてきた役割に関連して、非常にパーソナルな物語を持っています。私自身の核兵器反対の活動について言うなら、1962年のキューバ危機の際、世界が核戦争の瀬戸際まで追いやられた時に子供として感じた恐怖感が原点になっています。
今日の核兵器
核のない世界の夢を実現し、出現しつつある核拡散の脅威を止めるには、われわれの活動を高いレベルで維持しなければなりません。日本のグリーンピース・ジャパン、原水禁、グリーン・アクション、原子力資料情報室その他のグループの活動は、世界的な運動──原爆投下60周年が近づく中で非常に重要な段階にある運動──の不可欠の要素となっています。
5月には、核兵器をなくすことを各国に要請している核拡散防止条約(NPT)の再検討が行われ、私たちの前にある選択肢に目を向けさせられることになります。すなわち、核兵器の廃絶をとるのか、それとも、核兵器の許容の継続と、核兵器利用可能物質及び核技術の拡散の拡大をとるのか、ということです。
ご存じのとおり、米国は、NPTの6条に謳われた軍縮の義務の履行を迫るいかなる試みも阻止しようとするでしょう。米国は、核軍縮に関するいかなる真剣な議論をも避けようとし、イランや北朝鮮の拡散の罪について焦点を合わせようとすると同時に、西側諸国が起こしている拡散問題については無視するでしょう。米国その他のNPTで公式に認められた核兵器国が合意した核軍縮の義務の完全な履行を求める日本その他のNPT加盟国は米国と対決しなければなりません。
NPTの再検討が近づく中で、米国が2006年度に既存の核兵器のストックの維持に66億ドルという驚くべき額を使おうとしているのはショッキングなことです。これは、冷戦時代の兵器用予算を遙かに超えるもので、米国の政府関係者の冷戦思考が変わっていないことを示しています。
いくつかの米国の挑発的な核兵器計画についてお話したいと思います。これらは、NPTに悪い影響を与えるものです。
地中貫通型核爆弾復活
地下深くの司令部施設に対して核爆弾を使うことができるというばかげた考えが、軍事プラナーによって追求され続けています。この地中貫通型核兵器というのは、ブッシュ大統領の「核態勢の見直し」の下では、第一撃用兵器として、先制攻撃に使えることになっています。昨年「堅固な地中貫通型核爆弾(RNEP)」の予算が全額削除されたのにがっかりしたブッシュ政権は、今年は850万ドルを要求しました。これには、航空機を使って、硬化させた外殻の投下実験を行うというものも含まれています。
信頼性のある取り替え弾頭
「信頼性のある取り替え弾頭」という新しいプログラムが登場して、NPTに対する新しい脅威となっています。このプログラムは、非常に危険です。なぜなら、耐久性のある新しい核兵器を開発して、他のほとんどの設計に取って代わらせようとするものだからです。このような核兵器は、その役割の重要性から言って、実験をする必要がでてくるおそれがあります。このような核兵器は、軍拡競争の停止と完全な軍縮──すなわち、核軍縮は逆転不能のものでなければならない──というNPTの要件に完全に違反するものです。
核実験の再開の恐れ
昨年の予算要求は、ネバダ核実験場において2006年に核爆発装置安全性実験の準備をすることを指示するものでした。実際の実験に備えるものです。現在の予算要求は、命令がでてから18ヶ月以内に核実験を行える能力の改善を続け、ネバダ核実験場を予見できる将来に渡って維持するのに2500万ドルを要求しています。核実験を行う計画はないとブッシュ政権は主張していますが、実験準備を実際にしながら、どうしてそのような主張ができるでしょうか。
設計段階の新しい核兵器工場
議会は、エネルギー省に対し、昨年、「最新型ピット(芯)工場(MPF)」の設計を続けるために700万ドルを与えました。米国の全ての水爆の引き金となるプルトニウム型爆弾の芯の部分はピットと呼ばれますが、MPFは取り替え用ピットを作るところです。この施設は、非常に挑発的なものです。年間125個のピットを作るように設計されていますが、年間250個まで製造が可能です。つまり、目標は、米国の全ての核弾頭を取り替えることだと考えざるを得ません。これだけでも、NPTの健全性に対する米国の直接的攻撃と言えます。これらの計画は、NPTの下における米国の義務の違反をもたらしうるものですが、議会の共和党の議員の間でさえ懸念が生じています。このような懸念の声と国際的な圧力が合わされば、これらの計画を阻止するのに役立つでしょう。
プルトニウム拡散の脅威
ご存じの通り、米国の核兵器は、全てでないにしてもほとんどがプルトニウムを基礎にしています。長崎を破壊した物質です。米国は、核兵器用に100トン以上のプルトニウムを、旧ソ連は、150トン以上を生産しました。狂った人が両方の国を破壊しようとしたとして、それに必要な量を遙かに超えています。プルトニウムは、非常に危険な物質で、質のいいプルトニウムなら2kgほどで核兵器を作ることができます。国際原子力機関(IAEA)によれば、商業用のプルトニウム8kgで核兵器ができるということです。
核兵器国におけるプルトニウム生産が中止された結果、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)を要求する動きがでてきました。全ての国の軍事用プルトニウムの生産をやめさせようというものです。このような条約の交渉の実施は、NPT加盟国が2000年に合意した13のステップの一つでした。しかし、このような条約に向けての進展はなく、いずれにしても、FMCTは深刻な欠陥を抱えています。いわゆる民生用計画の核兵器利用可能なプルトニウムの問題に触れていないからです。
もう一つの核兵器用物質、高濃縮ウラン(HEU)の方では、実際的な進展が見られます。米国自身が先頭に立って、HEUの生産を中止してその商業用利用をやめさせるための努力が続けられています。
しかし、プルトニウムの方では、このような進展は見られておらず、その試みもずっと少ないといえます。いわゆる民生用プルトニム──兵器に使えるものですが──の量は200トン以上に達していて、軍事用のストックに匹敵するものになっています。様々な国で民生用計画が、核拡散のリスクを省みずに続けられています。フランスが約50トン以上、英国が75トン、ロシアが40トン、それに日本がヨーロッパに35トン、国内に5トン持っています。これが全て、盗まれたり、転用されたりして核兵器製造に使われるリスクを持っています。また、いわゆるダーティー・ボム(放射能爆弾)にも使うことができます。
核兵器に利用可能なプルトニムの生産がコントロールの効かないものになっているという事実が、世界的なプルトニウム産業の力を示しています。これは、国家つまりは納税者が出す巨額の資金によって維持されているものです。われわれは、彼らに支配されている核不拡散政策を、われわれの手に取り戻さなければなりません。彼らの活動には核拡散のリスクはないとの単なる請け合いを核不拡散政策の基礎としてはなりません。いかなる国においてもエネルギーの面でプルトニウムの必要性が示されていないにも関わらず、プルトニウム産業は、この物質を作り続けています。プルトニウムの量を増やす計画なのです。
日本は、核兵器物質のない世界への道を切り開くことができる
核不拡散条約は、核軍縮と核拡散防止の両方を扱っていると言うことを忘れてはなりません。条約は、核兵器の拡散を止め、原子力技術、核物質が核兵器に利用させるのを防ぐために考え出されたものです。NPT再検討会議のためにニューヨークに向かう多くのグループは、拡散を止めるという条約の機能を忘れてしまっています。NPT再検討会議に出られる方々は、核拡散防止のメッセージを持って行ってください。
使用済み燃料からプルトニウムを取り出すことによって無限のエネルギーを得るという理論は、誤っていたことが判明しています。しかし、日本は、プルトニウム増殖炉「もんじゅ」を復活させる計画に乗り出そうとしています。そして、六ヶ所の巨大な新しいプルトニウム工場の運転開始の作業を行っています。商業的再処理工場を運転しているのは、ロシア、フランス、イギリス、それに、小規模レベルのインドだけです。つまり、日本は、世界の流れに逆行して、とんでもない過ちを犯そうとしています。六ヶ所再処理工場の運転が始まれば、それは、核拡散防止面で世界的で長期的な意味合いを持つものになってしまいます。
六ヶ所は、現代において、もっとも高くついた建物でないかと思いますが、毎年、8トンのプルトニウムを(ウランと混ぜた形で)生み出す能力を持つことになっています。しかし、エネルギー面でこの核兵器物質の必要性を示すものは何もないのです。なぜ、このプロジェクトは進行し続けるのでしょう。
六ヶ所は、世界全体にとって核拡散防止面での大きなテストになります。もし、六ヶ所──核兵器を持っていない国における唯一の商業用再処理工場となる施設──が、運転を実際に始めれば、核兵器物質の拡散は受け入れられるものであり、NPTはそれを阻止し損ねたというシグナルになります。これは、この不安定性に満ちた現在の世界に発信すべき信号ではありません。
六ヶ所テスト
つまり、世界は、私が「六ヶ所テスト」と呼ぶものに直面しているのです。弱体化したNPTの枠組みの中でこの巨大な新設再処理工場の運転を許すのか。それとも、この問題に立ち向かい、核兵器用物質を商業の世界に導入することが許されないような方向に進むのか。六ヶ所を運転するか否かの決定を巡って日本国内で起きていることは、国際的な拡散問題の面でとてつもなく大きな意味合いを持ってますが、日本も、世界も、そのことを十分に理解しているとは思われません。日本は、世界の安全保障と、責任のある核不拡散政策とにとって正しい道を取り、再処理を正当化しないという決定をすべきです。六ヶ所がその運転開始に向けての道を歩む中、極めて重要な決定の時が迫っています。
幸い、プルトニウムの拡散という点では、理性の声が増えています。国際原子力機関のエルバラダイ事務局長は、新設の再処理・ウラン濃縮工場のモラトリアムをと訴えています。ポジティブな一歩です。昨年5月、事務局長は、「プルトニウムや高濃縮ウランを手に入れた国は、おそらく核兵器の開発能力という意味で、その決定をすれば、あと1ヶ月のところにあるといえるだろう」と述べて、プルトニウムの持つ脅威を強調しました。彼はまた、2004年12月、フィナンシャル・タイムズに対し、「核物質があれば、核兵器の部分はそれほど先ではない」と述べました。
ブッシュ大統領でさえ、新しい再処理施設のモラトリアムを呼びかけていて、最近、ウラン濃縮技術の拡散を規制することをNPTは認めていると述べています。ブッシュ氏の論理を使えば──私もこれには同感ですが──NPTの下では、核兵器に利用できるプルトニウムの蓄積を基礎とする計画を進める権利はないということになります。とりわけ、この物質のエネルギー面での必要性として考えられるものが全くないということ、そして、再処理は、環境、コスト、核拡散防止の面から言って最悪の使用済み燃料管理方法だということを考慮すればそうなります。
日本は、軍縮のための積極的活動を続ける一方で、核兵器用物質のない世界に向かう道でも先頭に立つことのできる素晴らしい位置にあることは明らかです。包括的核分裂性物質禁止条約──核兵器という目印がついているものだけでなく、核兵器に利用可能な物質全てを含む条約──を日本が呼びかければ、国際的に言って大きな重要性を持つものとなるでしょう。
政治的意志が欠けており、プルトニウム産業の圧力が大きい現在にあって、世界は、プルトニウムの拡散を止める強いリーダーシップを必要としています。日本は範を垂れることによって先導するという素晴らしい機会を持っています。そして、その範は、六ヶ所再処理工場の運転開始計画を停止することによって示すことができます。このゴールは、市民、政治家、そして国際的社会の圧力によって達成することができるものです。
強いリーダーシップと集中した意志がなければ、核兵器物質が蓄積され、取り扱われ、輸送され、使われという状態が続き、いつの日か、間違いなく、核兵器用に盗まれたり、転用されたりすることになってしまいます。それは、私たちが望む世界では決してありません。日本は、六ヶ所の運転とそれに関連した核兵器物質の拡散を停止させることによって、私たちみんなが求めているもっと安全な将来への道を示してみせることができるのです。
以上
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