日本原燃の点検結果報告書に関する原子力安全・保安院の評価(案)に対する質問書(2004.3.23)と回答(3.30)

日本原燃(株)(以下「原燃」)は,六ヶ所再処理施設の使用済核燃料受入れ・貯蔵施設(F施設)や再処理本体における多数の不正溶接問題などについて総点検を行ってきました。その結果,今年2月13日に「再処理施設 品質保証体制点検結果報告書」(以下「点検結果報告書」)を貴院に提出し,それを審査した貴院の「評価(案)」が2月29日に出されました。その後,両文書の改訂版が3月10日の第10回「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下「検討会」)に提出され,さらに原燃の改訂版が3月17日に出されました。貴院は,評価(案)で原燃の点検結果報告書を基本的に容認し,ウラン試験に進むことを是認しようとしています。

しかし評価(案)には,本質的な事項について疑問があり,ウラン試験に進む事はとてもできない状況にあると思われます。以下,具体的に質問しますので,3月29日までに文書で回答してください。

またこの質問書は,内容が検討会の議題と直接関係していることから,検討会の委員にも送付しています。貴院の回答は次回検討会までに,委員にも配布することを要望します。

1. 貴院の初期通達の趣旨を貫徹してください

保安院の評価(案)では,「はじめに(点検に関する当院の基本的考え方)」で「再処理施設に対する安全規制(使用前検査,溶接検査等)の実施に加え,『再処理施設の健全性』が確保されている(再処理施設が設計通りに適切に建設・施工されている)かどうか,及び,今後,核燃料物質である劣化ウランを用いるウラン試験以降の試験運転に入っていくに当たり『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制が確立されているかどうかを,徹底的に点検,検証すべきであると考えた。」と述べています。つまりここでは,「再処理施設の健全性」,「及び」,「『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制」の両方が確立されているかどうかを点検,検証することにしています。このうち前者は,原燃が昨年9月9日付け点検計画書で立てた考えですが,後者は貴院が昨年6月24日付け通達で原燃に要求した課題です。

その6月24日付け通達では,「その原因には同社全体における品質保証体制に問題があったと考えられることから,本日,同社に対し,別添2の文書により,施設・設備建設時の不適合処理等の品質保証体制について点検を行い,正しく機能しなかった原因の究明を行った上で,その結果について速やかに報告すること等の対応を求めました」と書かれています。また,この趣旨は検討会を設置するときの趣意にもなっています。

すなわちこの通達や検討会趣意では「建設時の」品質保証体制,それに関する原因究明を問題にしているのですから,当然今回の貴院の「評価(案)」でも,将来のではなく建設時の品質保証体制を点検・検証の対象としているはずです。誰が考えてもそうでないと点検・検証をする意味がないことは明らかです。

この点について以下の点を質問します。

質問1
貴院が「評価(案)」で点検・検証の対象としている品質保証体制とは,昨年6月24日通達に書かれているとおり,「施設・設備建設時の」品質保証体制であると理解してよろしいですか。もし違うときはいつの時点の品質保証体制なのか,理由を明記して説明してください。
(答)
昨年6月24日付け日本原燃(株)に対する当院の指示文書において、「使用済燃料受入れ・貯蔵施設及び再処理施設本体に関する施設・設備建設時の不適合処理等に関する品質保証体制」について点検するよう指示しています。
この指示における点検の対象としては、既に建設の完了している使用済燃料受入れ・貯蔵施設については建設当時の品質保証体制が、現在建設が進められている再処理施設本体については建設開始から今回の点検期間に至るまでの品質保証体制が、それぞれ該当するものです。
質問2
同様に,「評価(案)」で「『事業者の信頼性』の基礎となる品質保証体制」と言われているとおり,品質保証体制は「事業者の信頼性」の基礎になると規定されています。そうすると,ここでいう「事業者の信頼性」とは,将来に影響するのは当然としても,やはりまず第一に建設時の事業者の信頼性を意味していると理解してよろしいですか。もし違うなら,理由を明記して説明してください。
(答)
事業者の信頼性は、設計、建設、運転、廃止措置の全ての段階で確保される必要があります。その際、建設段階が他の段階に優先するということではなく、設計段階から廃止措置段階の各段階において、事業者の信頼性が確保されることが重要と考えています。

2.原因究明からの帰結をぜひ尊重すべきではありませんか

貴院が昨年6月の通達で要求した前記の品質保証体制に関する原因究明については,検討会の中でも絶えず議論になり,原因究明がなされていないとの指摘が多くの委員から繰り返しなされてきました。それらの議論は昨年11月の評価意見に集約され,それを受けた原燃の12月10日付け修正点検計画では,根本原因分析を用いて原因究明を行うことにしました。

「不適切溶接」などの6事象から出発する根本原因分析による原因究明は,貴院が「評価(案)」で前記のように「再処理施設の健全性」と「品質保証体制」に分けたうちの品質保証体制の方に入っています。つまりこの原因究明は,貴院が昨年6月通達で要求した品質保証体制に関する原因究明の線に沿うものであると考えられます。

この原因究明の結果,原燃は品質保証体制に関する次の5点の「反省点」を導き出し,貴院もそれを妥当だと評価しています。

  1. 化学安全の観点及び不具合発生時の影響(補修の困難さ)を考慮した品質保証上の配慮が十分でなかった。
  2. 施行段階の品質保証の重要性に対する認識が十分でなかった。
  3. F施設施工時の人員配置に適正さを欠いていた。
  4. 協力会社と適切なコミュニケーションを行える体制の確立がなされなかった。
  5. 1から4の事項に関して,トップマネジメントの関与が不足していた。
質問3
貴院の昨年6月通達の趣旨からは,当然この5つの反省点は,「施設・設備建設時の品質保証体制」における欠陥を示していることになりますが,その理解でよろしいですか。もし違うときは,理由を明記して説明してください。
(答)
5つの反省点は、日本原燃(株)の建設段階における品質保証体制の改善されるべき問題点であると理解しています。
質問4
製造時の品質保証体制に欠陥が見出された製品は回収,廃棄する,とのルールを適用しなければならない場合がありますが,安全上ささいな欠陥も許されない再処理工場施設については,これがより厳密に適用されなければならないのではないでしょうか。
(答)
日本原燃(株)の再処理施設については、今回の品質保証体制点検結果を受けて、当院として、施設の健全性が確保されているとの評価を行ったところです。また、使用済燃料受入れ・貯蔵施設については、使用前検査及び施設定期検査に合格したものです。
これらのことから、当院としては、当該施設を今後引き続き使用することには、安全上の問題はないものと判断しています。
なお、再処理施設本体については、引き続き使用前検査等を厳正に実施していくこととしています。

3.工期(スケジュール)優先疑惑について明らかにされたい

不正溶接の原因究明において,工期(スケジュール)問題は,検討会で繰り返し議論されてきた重要課題でした。原燃は「F施設プールライニング工事の工期設定に無理があったかどうかについて,原子力発電所プールの工事量及び作業工数と比較することにより評価しました。その結果,・・・(略),工期の設定は妥当であったと判断できる」(資料7-2-1)と記述しています。ここで作業工数の基礎となる後張りライニング工事期間について,原燃は「約7ヶ月」としています(資料6-5)。ところが貴院から入手した「使用前検査成績書」の具体的事実からは,この期間は約7ヶ月ではなく,基本的に約3ヶ月であると判断できます。ライニング工事期間が約7ヶ月ではなく,約3ヶ月であったならば,原燃が重大な虚偽報告をしたことになり,不正溶接が行われた背景には,スケジュール優先問題が横たわっていたことになります。

また,原燃の根本原因分析では,ライニングの「板取」について,現場での(単に設計図どおりにするのでなく,実際のコンクリート躯体の測定結果に基づく)板取工程は存在したが,それが機能したかどうかはっきりしないとの判断を示し(資料7-2-3),基本的な責任を施行会社に負わせています。

ところが「使用前検査成績書」によれば,すでにミリ単位にまで切断されたライニングプレートのすべてが,コンクリート打設が完了する前に現場に搬入されたと判断できます。すなわち,現場での「板取」工程は最初から想定されていなかったということです。しかも,そのプレートを受け取っているのは,施行会社ではなく元請会社です。不正溶接に元請会社が直接関係していた可能性があります(別紙資料を参照してください)。

質問5.
貴院は原燃から,いくつかある各施設それぞれの工事内容と工期及び資材の調達に関する資料を入手し,検証を行いましたか。この工期と工程問題について貴院の見解を明らかにしてください。
(答)
当院は、日本原燃(株)に対して使用済燃料受入れ・貯蔵施設のプール施工時の工程に関する資料の提出を求め、同社から提出のあった当該資料に基づき検討した結果、工事期間が必要以上に短期間であったとは判断しておりません。なお、当院としての上記の判断は、六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会においても、同社から当該資料に基づく説明を受けた上で、審議が行われ、この審議結果も踏まえ、当院としては、同社が設定した工事期間が必要以上に短いものではなかったと判断しています。
なお、資材調達の時期を考慮した場合実質的な工事期間は短かった、との指摘については、工事期間の問題ではなく、むしろ元請業者が行う工事の手順、段取りに問題があったことによると考えられます。このような問題がありながら適切な是正措置が講じられなかったことについては、日本原燃(株)の協力会社に対する品質保証の体制が適切でなかったことが原因と考えています。

4.「再処理施設の健全性」は確認されたのか

原燃が「健全性の確認」と称して行った点検は,書類点検が130日程度で27万件(1日2000件余り),現品点検が50日程度で16万件(1日3000件余り)というものです。これは,PWR燃料貯蔵プールの水漏れ箇所を突き止めるだけのことに1年4ヶ月(01年7月〜02年11月),291箇所の不適切溶接が確認されるまでにさらに9ヶ月(〜03年8月)を要したことと比較しても,あまりに拙速であり,このような点検で「健全性の確認」ができるのかどうか甚だ疑問です。

また,点検対象の書類自体に信頼性があるのかについても強い疑問があります。事実,第1回検討会において,貴院の薦田審議官は「今回のつらいところというのは,プールなんかで見ていますと,むしろ記録が信用できないという,記録があったとしても信用できないというところが多々見受けられるところがございまして」と述べ,さらに,信用できないというのは記載能力の問題かそれとも確信犯的な問題かとの神田委員の質問に答えて,「いやもう確信犯的なものですよね」と答えています。

質問6
薦田審議官のいうように,今回の点検対象になった記録類には信頼性がないというのが貴院の捉え方ですか。
(答)
日本原燃(株)から平成15年9月9日に提出のあった品質保証体制点検計画書について、検討会でご審議いただき、同社の記録の信頼性・信憑性を確認するような措置を講ずる必要性が指摘され、当院は、日本原燃(株)に対して、書類点検で問題がないとされたグループに関しても、それぞれの代表設備に対して現品点検を行うことを求めました。
これに対し、日本原燃(株)において3,834基の設備を対象として現品点検を実施した結果、問題となるものが発見されなかったとの報告が当院に対してなされております。
これを踏まえ、現段階では、当院として、同社の記録類に信頼性・信憑性の問題はないと考えております。

以下具体的な一つの事例に即して質問します。

使用済み燃料受入れ・貯蔵施設内の燃料送出しピットの北東壁部における漏えいは,昨年2月7日に発見されてから聞き取り調査では容易に真相がつかめなかったため,不正溶接が特定するまでに2ヶ月を要しました。漏えい箇所では,検知溝をつなぐ連絡溝が,設計図ではあるはずなのにつくられていませんでした。そのため,上部の先張りパネルを切り欠いて連絡溝をつくり,その切り欠いたパネル部分を溶接で埋め,それを隠蔽するためにグラインダで磨いていました。

原燃は,もっぱら同じような溶接箇所がないか調査し,138箇所を見つけています。しかし問題の本質は,なぜ設計図どおりに連絡溝がつくられなかったかの方にあるのは明らかです。この点,検討会資料7-2-3の根本原因分析では,なぜ連絡溝の加工を行わなかったかの第1原因として,「検知溝接続部の加工を省略した」と「検知溝接続部の加工を忘れた」の両方を並列しています。これは考えられる可能性を単に挙げただけで,第1原因は特定されていないことを示しています。最後の第5原因では,要するに従来の軽水炉プールとの構造の違いをわきまえていなかったからとなっています。さらに「改善策」では,このようなことが起こらないよう書類等に明記しておくこととなっていますが,これはプールを作り直す場合の改善策だと思われます。

それはともかく,「施設の健全性」において問題なのは,連絡溝がすべてつくられているか否かということでしょう。もし連絡溝がつくられていなければ,漏れが感知できないばかりか,漏れた水がパネルとコンクリートの間にたまってしまうことになります。

質問7
連絡溝がすべてつくられていることは確認されているのですか。聞き取り調査の状況から,不正を行っていても関係者は沈黙している可能性が高いでしょう。もし確認したのであれば,現品で具体的にどのように確認したのか明らかにしてください。
(答)
事業者は、連絡溝がすべて設定されていることを、目視検査等により確認していると承知しています。

5.原燃の情報隠蔽体質は全く変わっていないのではないか

私たちは今年2月4日に原燃に対し公開質問書を提出しました。1週間ないし10日以内での回答を求めましたが,回答が寄せられたのは約1ヶ月経過した後でした。しかも,「工期(スケジュール)が厳しかったとは言えない」という,不正溶接の原因究明に関る問題で,原燃の結論の裏付けとなる事実について尋ねたのに,回答は抽象的で,具体的な事実に触れるのを避けるものでした。そこで,別のより本質的な問題点について説明を求める文書を3月5日に提出した上で,3月8日に六ヶ所村の建設事務所を直接訪ねました。そのとき原燃は,前の質問に答えていない部分があるという単純な事実を認めるだけで面会時間の30分を要するという対応ぶりでした。また,3月5日付け質問への回答は4月末ごろまでは出せないと答えました。また別に原燃は,今年2月29日の検討会の席で,青森県民が説明会・討論会開催を要求したのに対し,3月9日にこれを拒否しています。

質問8
第10回検討会では,委員から,原燃はディベートにも応じるべきとの発言があったことも踏まえ原燃の情報非公開の態度について貴院は指導を行うべきではないでしょうか。
(答)
当院としても、日本原燃(株)に対する国民からの信頼は説明責任を全うして初めて獲得されるものであり、同社においては、原子力安全に関する品質保証に基づいた対外的な説明責任を果たすことが求められていると考えております。また、同社において、点検結果報告書が掲げる信頼回復措置を着実かつ継続的に実施し、地域の目線に立った、実のあるコミュニケーションを重ねる必要があると考えております。
当院の評価(案)においては、以上の点についても記載しているところであり、今後、同評価がとりまとまれば、必要な指導を行っていく考えです。

6.あいつぐトラブルが示すもの

今年3月20日付デーリー東北紙は,再処理工場事務建屋から,配水管の接続ミスにより,基準を超える大腸菌を含んだ一般生活排水が尾駮沼に流れ込んでいたことが,19日に明らかになったと伝えています(原燃のホームページにも記載がありますが,「配管の接続ミス」については触れていません)。このような配管は,建築完了時にピンポン玉や色のついた水を流すなどして,設計どおりに排水されることを確認するのが通常です。大腸菌を検出してはじめて接続ミスに気づいたというのは,検査体制が極めて不十分であり,品質保証体制が機能していないことを示すものではないでしょうか。もし再処理本体施設関係で同様のことが起これば,放射能まみれの排水がそのまま外部に出るということになり,恐ろしい限りです。

質問9
六ヶ所再処理施設では,総点検の最中にも上記を含めトラブルが続いていますが,このような品質保証体制は,とうていウラン試験に入ることなどできないのではないでしょうか。この点貴院の見解を伺います。
(答)
当院としては、日本原燃(株)の使用済燃料受入れ・貯蔵施設を含む再処理施設の施設及び設備の健全性が確保されており、同社の品質保証体制に対する改善策は有効と考えており、その旨を当院の評価(案)に記載しているところです。日本原燃(株)において、今後、当該改善策が着実に実行された上で、同社がウラン試験を開始することには問題ないと考えております。

以上

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