12月5日:原子力防災計画と原発再稼働審査の安全性問題についての 質問・要望書

原子力防災計画と原発再稼働審査の安全性問題についての質問・要望書

京都府知事 山田啓二 様

 日頃は、京都府民の安全のためにご尽力いただきありがとうございます。原子力防災計画と再稼働審査の安全性について府民より質問と要望をいたします。

 京都府北部6市町と京都市の一部は、大飯、高浜両原発から30キロ圏という至近距離に位置していますが、これら7市町すべてが、毎日新聞の聞き取り調査に対して『原子力災害時に孤立する集落がある』と回答しています。たとえば綾部市は、市民サイドの質問に対して、『府道1号線は、家屋倒壊などによって通行できなくなり、奧神林地区住民は避難できないかもしれない』と認めながら、それでもこれらの市町では避難計画が策定されたことになっています。
 また、避難が優先されるべき妊婦や乳幼児、要援護者の避難計画策定が後回しになっていないでしょうか。

 今年9月に発生した台風18号は、北部の市町だけでなく南方向の避難受け入れ先とされる亀岡市や京都市などにも甚大な被害をもたらし、京都縦貫道や国道9号線、477号線、175号線などの幹線道路やJRは不通となって、原発震災時の避難が本当に可能なのかどうかがリアルに問われることとなりました。
ところが広域避難の調整を行っている関西広域連合は、市民により避難路の検証を繰り返し求められながら、これを行っていません。そして、実は府県レベルや市町レベルでも行っていないという声も聞きます。京都府は実施されているのでしょうか。
 さらに、福井県嶺南地方からの避難民を含めてどこで避難者のスクリーニングを行うのかも未定だと聞きます。このような現状では避難計画ができたとは到底言えません。

 西への避難先とされる兵庫県は、同県のシミュレーションによれば、京都府に隣接する篠山市で、IAEAが定めた安定ヨウ素剤服用基準の3倍を超えるほか、京都府民の避難先の一つとされる神戸市でも高い汚染が予測されています。しかるに、もっと深刻であるはずの京都北部の汚染予測は公開されていません。さらには琵琶湖の汚染や水の確保など、多くの問題に対して府民の不安が解消されないままとなっています。

他方、大飯原発3・4号、高浜原発3・4号の再稼働審査が急ピッチで進められていますが、再稼働審査では、炉心溶融を前提にする等、極めて危険な関電の事故シナリオが審査されています。
これらの問題について、以下の質問と要望を致します。

1.原子力防災計画について

(1)広域避難計画について
 �京都府の南方向、西方向、それぞれへの避難計画の詳細は決まっていますか。

 � 避難ルート、要援護者の避難、スクリーニングの実施場所・方法等は決まっていますか。

 � 台風18号の被害は、福井・関西一円でも道路の寸断など大きな爪痕を残しました。避難計画は、自然災害と原発事故の複合災害を考慮したものとなっていますか。
 
 �福井県との協議は行われていますか。現状を教えてください。

(2)安全な水の確保について
 滋賀県は、11月18日に若狭の原発で事故が起こった場合の、琵琶湖の汚染シミュレーション「中間報告」を公表しました(「琵琶湖流域における放射性物質拡散影響予測(中間報告)」。「中間報告」では、ヨウ素やセシウムによる汚染は避けられず、飲料水の摂取限度と比較して、少なくとも1週間は、琵琶湖を水瓶とする1450万人は琵琶湖の水を飲むことができません。また、汚染は琵琶湖下流の河川に広がっていきます。
琵琶湖に依存する京都府南部の住民はもとより、由良川水系などに依存する北部の府民も水源が汚染され、安全な水を飲むことができません。

 �滋賀県の水の汚染予測について、京都府の見解をお聞かせください。

 �安全な水の確保について、取り組み状況をお知らせ下さい。

(3)兵庫県のシミュレーションについて
 兵庫県は、若狭の原発で事故が起こった場合の被害シミュレーションを今年4月に作成しました。それによると、50から60キロ圏の篠山市でヨウ素の被ばく167ミリシーベルト(甲状腺等価線量、1歳児、7日間)、100キロ離れた神戸市でも安定ヨウ素剤の服用基準を超える等、調査4地点すべてで高い被ばくが予測されています。これよりも原発に近い京都府7市町の汚染予測値がはるかに高いことは容易に想像できます。汚染予測データを知り、万一の事故に備えたいと考える府民の声は切実です。
 しかるに京都府は、自らが取られたSPEEDIの汚染予測データがあることを理由に、兵庫県からのシミュレーション結果の取り寄せに難色を示されています。
そもそもSPEEDIによる予測は、一定の条件を課して行われたものであり、この条件設定が現実の事故下でも有効であるとはとうてい言えません。特に西方向への風向きに対するデータはほとんど空白ですが、兵庫県のデータは京都府のデータを補完する関係にあり、ダブルスタンダードが生じると考えることは杞憂ではないでしょうか。
福島の実例では、風は気まぐれに向きを変え、全方向に吹くと言っても過言ではありません。そして関西広域連合は、国は今後SPEEDIを用いないと言っているとも述べています。
 兵庫県のシミュレーションは全体で496�四方、4�メッシュで作成されており、他府県から要望があれば公開するとのことです。住民の安全を第一に考え、住民に多様な情報を提供することは行政の務めではないでしょうか。

 �兵庫県が今年4月に実施したシミュレーションの京都府域の予測結果を入手し、公開してください。

2.再稼働審査の安全性問題について

(1)汚染水対策について
福島原発では深刻な汚染水漏えい・流出が続いており、有効な手立てはないままです。他方、関西電力の海への放射性物質の放出抑制対策は、シルトフェンスを海に張るというものです。
これまでは(a)止める、(b)冷やす、(c)閉じ込めるという三重の防護でした。新規制基準では、最後の砦として(d)拡散抑制が追加されました。この最後の砦である拡散抑制対策の内、海への放射性物質拡散抑制として関西電力が示しているのがシルトフェンスです。
 また、新基準では、規則55条(工場外への放射性物質の拡散を抑制するための設備)の解釈で、格納容器への放水とは別に「e」海洋への放射性物質の拡散を抑制する設備を整備すること」となっていますが、これへの対応がシルトフェンスです。

� 海の汚染を防ぐための対策がシルトフェンスであることを知っておられましたか。

� シルトフェンスでは放射能をくい止めることはできず、福島第一原発でも何度も破れるなどしています。関西電力のこの対策で海の汚染を防ぐことはできないのではないでしょうか。見解をお聞かせください。

� 福島原発の汚染水対策が立たない状況であることを知りながら若狭の原発を再稼働して、いったん事故が起これば日本海を汚染し、取り返しのつかない状況に陥ります。再稼働審査は中止して、福島の汚染水対策に集中するように原子力規制委員会に申し入れてください。

(2)関西電力の炉心溶融を前提としたシビアアクシデント対策について
再稼働審査では、重大事故(シビアアクシデント)対策が審査されています。関西電力の事故シナリオ(一次冷却材配管破断、ECCS機能喪失等の場合)では、炉心溶融が起きても炉心に一切注水することなく、溶けるに任せるとしています。そして全溶融燃料が原子炉圧力容器を突き抜けて格納容器下部に落下するのに対し、格納容器の天井にあるスプレイリングからシャワーのように水をかけて下部キャビティに水を張り、落下する溶融燃料を待ち受け冷却するというものです。
しかし、新基準の審査基準「1.8 原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための手順等」の「解釈」では、「(2)溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下遅延・防止」として「a)溶融炉心の原子炉格納容器下部への落下を遅延又は防止するため、原子炉圧力容器へ注水する手順等を整備すること。」となっています。関電の事故シナリオは、国の基準にも違反しています。

� このようなメルトダウン、メルトスルーを前提にして、原子炉圧力容器に水を注入しないという事故シナリオを関西電力が描いていることを知っておられますか。

� 福島原発事故を教訓とすれば、炉心溶融を前提にしたような再稼働は許されないのではないでしょうか。

(3)原発の地震動の過小評価について
関西電力は、地震の規模を示す地震モーメントMoについて、津波評価の場合は「武村の式」を使用し、地震動評価の場合には「入倉の式」を用いて評価しています。地震動を「武村の式」で評価すれば、地震モーメントMoは「入倉の式」の4.7倍も大きくなります。少なくとも津波評価と同様に、「武村の式」で地震動評価をやり直す必要があります。
地震モーメントMoが4.7倍になれば地震動も4.7倍となります。ストレステストで評価したクリフエッジ(崖っぷち)=基準地震動Ssの1.8倍よりはるかに大きな地震動になります。ストレステストの評価結果と比べれば、原発のほとんど全ての機器が破壊され、使用済み燃料プールの冷却系統も働かないため、大規模な火災が発生して使用済み燃料内の放射能が大気中に放出されます。まさに、福島第一原発事故をはるかに超える過酷事故が発生します。

� 原子力規制委員会に対して、津波評価で使用している「武村の式」で地震動評価をやり直し、耐震安全性について早急に検討し直すよう、要請してください。

� 以上のように、実効性のある避難計画も確定しておらず、再稼働審査での安全性確認に大きな問題がある中で、再稼働は認められないと表明してください。

2013.12.5

京都の原発防災を考える会
原発なしで暮らしたい丹波の会
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農と宇宙とわたし 丹波の会
農業生産法人 みわダッシュ村
小さな気持ちプロジェクト
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