関西電力宛質問書:関電の不正報告書に関する質問書

  • 高浜3号機・大飯3号機以外の9基の原発で計器のデータ改ざんを調べもせずに
  • 全ての不正を洗い出したと言えるのか
  • 温排水のデータ改ざん認めず−−これで不正体質が変わったといえるのか
  • コンプライアンスが「根付いていない」のは「現場」だけか

2007年4月6日
関西電力社長 森 詳介 様

 以下の質問事項について、4月10日の交渉の場で回答するよう求めます。

 関電が発表した原子力部門に関する「不適切事象」は下表のとおりです。

部門番号 判明経緯 評価 関係法令 発電所等 件 名 時 期
記録等 電事法 美浜1号機 溶接事業者検査手続き漏れ(余熱除去系統) H19.2.16
聴取等 協定 大飯3号機 大飯3号機 キャビティ水の移送実績の改ざん H7.9
記録等 協定 大飯3,4号機 復水器海水温度に関する計器の不適切な調整 H10.1
聴取等 協定 大飯2号機 充てんポンプ出口弁からの水漏れ事象に関する不適切な対応 H12.1
若狭支社(当時) 総合保安管理調査に提示する社内資料の改ざん H7
美浜・大飯・高浜 総合負荷性能検査での記録対象計器に関する不適切な調整 H15.10以前
原子力事業本部 保安規定変更認可申請書における誤記の不適切な取り扱い H17.7
大飯3,4号機 制御用空気圧縮機の切替え操作実績の改ざん H19.2

〔I〕今回の点検に関する関電の基本姿勢について

1.不正報告書で「全ての膿」を出し切ったのか

不正報告書の「1.はじめに」(1頁)では、「今回の点検は、すべての不適切な事象を洗い出し、過去の不正を清算するという気構えで、記録等に基づく点検と、それを相互補完する観点からの網羅的な聞き取り調査を実施した」と書かれている。

しかし、原子力部門の点検方法については、「計器のデータ改ざん」について、「表4−1点検方法」(4頁)の注釈として小さな字で「高浜3号機、大飯3号機以外のユニットについては、各ユニットの定期検査に合わせて点検を実施することとしており、平成19年12月に点検を完了する予定である」と書かれている。

(1)点検の対象とした期間について

他社の不正報告書では、「点検範囲」として、点検の対象とした期間が明記されている。しかし関電の不正報告書では、その点が明確に書かれていない(表4−1)。

�「必要な手続きの不備」に関する点検期間は、「最長過去10年間」だけか。

�「データ改ざん(計器関係)」の点検期間は、「現時点」だけか。

�「データ改ざん(記録関係)」の点検期間は、「至近の記録」だけか。また「至近の記録」とは、いつのことか。

�点検内容の「聴き取り調査」・「面談調査」で明らかになった不正について、関連する資料は残っているのか。調査結果の客観性を担保するために、資料が残っている場合は公表すべきではないか(資料が残っていない場合は、関電の報告書を鵜呑みにするしかないことになる)。

�「聴き取り調査」に使用したアンケート用紙を公表すること。

(2)「計器のデータ改ざん」に関する調査を2基の原発でしか行っていないこと等について

�「データ改ざん」の点検については、点検期間を「現時点」「至近の記録」と極めて短期間に限定したのはなぜか。

�高浜3号機・大飯3号機以外の9基の原発では、「計器のデータ改ざん」について調査していないのは事実か。なぜ全ての原発で調査しなかったのか。

(3)点検体制について

不正報告書の2頁「図3−1 点検体制」では、原子力部門の直接的な調査を行った「原子力発電WG」の副主査として、また「再発防止部会」の部会員として「藤谷副事業本部長」の名があげられている。

�「藤谷副事業本部長」とは、美浜3号機事故当時の若狭支社長だった藤谷堯氏のことか。

�そうであれば、美浜3号機事故で破断した配管が28年間も未点検であったことを「知らなかった」と無責任な態度を取っている人物を、「過去の不正を徹底して洗い出す」点検の責任者にしたのはなぜか。

�このような人選の責任は、「発電設備点検委員会」の委員長である社長にあると理解してよいか。そうであれば、社長の責任を明らかにすべきではないか。

(4)今後、不正は一切出てこないのか

甘利経産大臣は、今回の不正報告で「膿を出し切る」「過去の不正の徹底的な洗い出し」を行うと繰り返し発言している。

関電としては、今回の不正報告書で過去の不正を全て洗い出したといえるのか。今後、不正は一切出てこないのか。

2.基本姿勢等について

(1)美浜3号機事故以降の不正について

不正報告書の「5(2)不適切な事象の評価」(14〜15頁)では、「美浜3号機事故を受け策定した再発防止策以降に発生したものが8件」(その内、原子力で3件)となっている。このことは、美浜3号機の「再発防止策」が機能していないと判断しているのか。

(2)温排水のデータ改ざんについて

不正報告書では、大飯3・4号機の復水器海水温度のデータ改ざんについて「不適切な調整」と評価している。「データ改ざん」として認めていない。他の電力会社は同様の件について「データ改ざん」と認めている。今に至っても温排水の「データ改ざん」を認めようとしない姿勢では、「社会の皆さまの信頼を賜ること」(不正報告書15頁の結びの言葉)はできないのではないか。

(3)「BNFL製MOX燃料問題」とは何か

不正報告書の15頁では、過去の不正や事故について触れている。そこでは「平成11年のBNFL製MOX燃料問題」として、「問題」としか書かれていない。「BNFL製MOX燃料問題」からは何を教訓として学んだのか。これでは何のことなのかまったく分からない。

(4)点検結果の総括について

不正報告書の15頁では、今回の点検結果を総括して

  • 「手続き漏れや改ざんをチェックする機能が十分でなかった」
  • 「CSR、コンプライアンスの根付きが十分でなかったこと」が課題として明らかになったとし、
  • 「その点を踏まえた現場第一線職場に対する支援を検討していく必要」をあげている。

�しかし、「チェック機能が不十分だった」のではなく、会社ぐるみで不正を行っていたという関電の体質が問題なのではないか。

そのことは、例えば、水力発電所での不正で、本社の指示で不正プログラムを「標準機能」としていたことからも明かである。本質的には、データ改ざんや隠ぺい等の不正を「慣習」として行ってきた関電の体質が問題なのではないのか。そのことに対する反省がないのはなぜか。

�コンプライアンス等の「根付きが不十分」なので「現場を支援する」としているが、「根付きが不十分」なのは「現場」だけなのか。社長にはコンプライアンスが「根付いている」のか。

�美浜3号機のような大事故を引き起こし、その後も違法な溶接工事を行っていた事などからすれば、関電には原発を運転する能力がないのではないか。

〔II〕「不適切事象」の評価について

1.当直課長引継簿及び運転日誌に記録しなかった場合、それは保安規定違反ではないか。

2.美浜1号・余熱除去系での溶接事業者検査手続きもれについて(部門番号1)

この件について貴社は次のように説明している。「美浜1号機の第22回定期検査において、大飯3号機のトラブルを反映した水平展開として、余熱除去系統試料採取配管の溶接形状を変更する工事を行ったが、当該工事で実施した溶接箇所のうち、溶接事業者検査を実施する必要があった2箇所について、検査が行われていないことを確認した。

当該箇所は、非常時に安全装置として使用される設備からみて最も近い弁であることから、安全系設備に含まれるものとして扱われ、本来、電気事業法52条に基づく溶接安全管理審査申請の手続きを経たうえで溶接事業者検査を実施し、溶接構造物としての健全性を確認した状態で使用すべき箇所であった」。

また、貴社の3月16日発表によれば、2007年2月16日に、「溶接事業者検査を実施していない箇所が2箇所あることが判明」となっており、その同日のプレス発表で、「当該部の作業にあたっては、一旦原子炉容器の燃料を取り出し、余熱除去系統の隔離・水抜きを行った上で、検査に必要な手続きを確実に行い、当該部を再溶接し、検査を受けることとします」と方針を発表している。さらに、2月19日に社内に「溶接事業者検査手続き問題対策検討会」を設けている。

(1)この件は電気事業法違反という重大な性格のものである。

�その違反に関する調査報告書をいつ原子力安全・保安院に提出したのか。

�溶接のやり直しの方針についていつ保安院に説明し、いつ承認を受けたのか。

�燃料取り出しという具体的な作業にはいつから取り掛かったのか。

(2)このような電気事業法違反が起こったことの責任はどこにあると考えているか。それに対してどのような措置をとったのか。

3.大飯3号・キャビティ水の移送データ改ざん(部門番号2)

貴社の説明によれば、定検時に燃料集合体を入れるマスト(保護筒)の内面にある下限ストッパーが少し突き出ていたため、集合体9体のグリッドがひっかかった。それをはずすため水位を5.6m下げたが、その水は移送先の燃料取替え用水ピット水位を押し上げることになる。

その記録が残るのを避けるため、水位に模擬データを入力し、水位変動の記録を残さないようにした。また、当直課長引継ぎ簿および運転日誌に、キャビティ水の移送操作を記録しなかった。

  1. これは表題どおり「データ改ざん」であると認識しているか。
  2. この行為を行った人物は特定されているのか。どのような措置をとったのか。
  3. キャビティ水位を5.59m下げているが、保安規定ではどこまで下げてよいのか。
  4. グリッドが接触した9体の燃料集合体に損傷は認められなかったと、当時の外観検査時のビデオから判断している。

�そのビデオをいつの時点で撮影されたものか。

�この行為を行った人物はその事実についていつ知ったのか。

(5)水位変動を運転管理専門官(当時)に説明することによって、マスト内下限ストッパーと燃料集合体グリッドの接触についても説明することになるため、これを避けようとする意識が働いたと「推定」しているが、なぜそのような意識が働いたのかについて本人に確認していないのか。なぜそのような意識が働いたのか、その状況・風土についてはどう考えているか。
(6)地元との安全協定への影響が軽微なもの(Dランク)と評価しているが、安全協定の第何条に違反しているのか。

4.大飯3・4号での復水器海水温度に関する計器の不適切な調整(部門番号3)

これは、復水器海水温度の計器指示値を勝手に変えていたというすでに公表済みの案件であるが、今回の公表でも「不適切な調整」と名づけて改ざんとは表明していない。「調整」した指示値は4点あるが、どの場合も復水器前後の温度差または取水口と放水口の温度差を縮める方向になっている。

(1)今回報告書の原因の項で、「実際に本調整後も△Tが7℃を越える値が表示されていることからも、△T7℃を制限値と考え、それを守るために実施したとは考え難い」と記述しているが、この案件はデータ改ざんではないと判断しているのか。同様の問題について、原電や東電が改ざんであると明確に認めているが、それらとの違いは何か。

(2)温度指示値のばらつきについて、温度計の校正をするのではなく、計器の指示値を勝手に「調整」したこと自体がすでにデータ改ざんではないか。

(3)大飯3号機で「復水器入口海水温度の方が取水口海水温度に比べ調整前は約0.1℃高かった」と記述している。その場合、調整前の「復水器入口海水温度」は4台と他の2台で異なっているが、どの値を指しているのか。

(4)結果的に温度差が広がる方向に「調整」することも可能であったはずだが、なぜ縮まる方向にばかり「調整」したのか。

(5)地元との安全協定への影響が軽微なもの(Dランク)と評価しているが、安全協定の第何条に違反しているのか。

5.大飯2号での充てんポンプ出口弁からの水漏れ事象に関する不適切な対応(部門番号4)

2000年1月に、定格出力運転中の大飯2号機で、運転状態にあったC−充てんポンプ出口弁のキャノピーシール部(弁箱の接合部からの漏れを防ぐよう外周に取り付けられた溶接シール)から1次冷却水の漏洩を確認。当該ポンプを停止した上で漏れ部分の部分溶接補修を実施し復旧した。ところが、その数日後に別の箇所から漏洩があり、キャノピーシール部の全周溶接補修を実施した。

この件について、国や福井県に連絡しなかった。また、当該ポンプの切り替えを行ったがその旨を当直課長引継簿に記載しなかった。

(1)地元との安全協定への影響が軽微なもの(Dランク)と評価しているが、安全協定の第何条に違反しているのか。

6.美浜、大飯、高浜原発の総合負荷性能検査での記録対象計器に関する不適切な調整(部門番号6)

総合負荷性能検査で、調整運転中のプラントパラメータ(加圧器水位、蒸気発生器水位、主蒸気流量等)をデータ採取し、プラントが安定した運転状態にあることを確認している。データ採取の際に測定箇所が同じである複数の計器に、許容誤差範囲内のばらつきが認められた場合、計器の表示値を合わせるためにドライバーで計器の針を調整するような「不適切な調整」を行っていたという問題。

(1)総合負荷性能検査で加圧器水位などの非常に重要なデータを勝手に「調整」したのは検査妨害に相当するのではないか。少なくともデータ改ざんではないのか。

(2)「調整」が許容誤差内であったことはどのようにして確認できたのか。ばらつきがある場合、どのデータに合わせたのか。

(3)「表示値のばらつきが認められた場合に、そのばらつきが発生した理由について、検査官に説明することを避けようとする意識が働いたものと推定される」と評価しているが、なぜそのような意識が働くのか、その状況・風土に関する分析はなされたのか。

7.大飯3・4号での制御用空気圧縮機の切替え操作実績の改ざん(部門番号8)

これは原子力安全・保安院から大飯3号機および4号機の制御用空気圧縮機の健全性について調査するようとの依頼から出発している。担当課長は、その方法について発電室長に相談したが、その際、関係者を限定した調査をする方針である旨を伝えた。発電室長は当直課長に、2台ある制御用空気圧縮機の切り替え方法を指示した。

発電室長と当直課長は、切替えデータが記録に残ると関係者を限定した調査ができなくなると考え、約50 分間記録計のペンを浮かせ、記録計の空白部分に「時間調整」と記載することを当直課長は運転員に指示した。また当直課長は、当直課長引継簿および運転日誌に切替え操作を記録しなかった。

(1)これは表題どおり「改ざん」であると認識しているか。

(2)この件についてなぜ原子力安全・保安院から調査依頼がなされたのか。その調査は秘密裏に行うべきものだったのか。

(3)担当課長は関係者を限定した調査をする方針としたが、担当課長とは誰か。なぜ関係者を限定する方針にしたのか。

(4)発電室長と当直課長は「記録を残さないようにすべきと勘違いした」というが、記録を残さない行為は関係者を限定する方針から必然的に導かれるものではないか。そのような隠蔽的な行為を行う意識風土はどのようなものだと考えているか。

(5)このような隠蔽を行った担当課長に対してどのような措置をとったのか。

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