5名もの死者を出した美浜3号機事故をふまえ、関西電力の原子炉設置・運転許可の取り消し等を求める要望書、及び質問書
5名もの死者を出した美浜3号機事故をふまえ、関西電力の原子炉設置・運転許可の取り消し等を求める要望書、及び質問書
経済産業大臣 中川昭一 様
5名もの死者を出した美浜3号機事故から、1ヶ月が経ちます。事故そのもの、及び、事故後明らかになっている関西電力の一層の安全無視、人命無視の実態から、私たちは、このまま関西電力が原子力発電所を運転し続けることに大きな恐怖を感じています。そのため、以下の要望を行います。要望事項と関連する質問事項に速やかにお答えください。
要望事項1.5名もの死者を出した美浜3号機事故に関する、監督官庁としての国の責任を明らかにしてください。
美浜3号機の事故は、2次系配管の検査がいかにずさんであったかを事実でもって示しました。また、関西電力の安全無視と人命無視が生み出した、起こるべくして起こった事故でした。
1986年の米国サリー原発で同様の事故が起きた後、国は2次系配管の管理を事業者に任せきりにしてきました。また、今年5月に関西電力の全ての火力発電所で検査記録のねつ造・改ざん事件が明らかになった際、私たちは原子力安全・保安院に対し、関西電力の原発でも同様のことが行われていないか調査するよう要求しました。しかし保安院は、その要求に耳を傾けようとしませんでした。また保安院は、関電のプルサーマル再開では、高浜原発・関電本店に立入検査を行い、「トップマネジメントによる品質保証体制は確立されている」とお墨付きを与えました。しかし美浜3号機の事故後、高浜3号機でも、2次系配管の検査リスト漏れが8箇所も見つかっています。保安院が行った関電の監督とは何だったのでしょうか。
このように、国が二次系配管の安全を軽視し、検査を形骸化させ、関西電力の傲慢かつ安全無視・人命無視の体質を放置してきたことが、今回の事故の基礎にあると思われます。
要望事項2.関西電力には原子力発電所を運転する資格のないことが、美浜3号機事故によって明らかになりました。関西電力に対する、原子炉設置・運転の許可を取り消してください。
今回の事故により、関西電力は2次系配管の検査を下請け会社に丸投げしていたことが明らかになりました。このことは、8月31日の衆議院経済産業委員会の場で、藤社長も認めています。この「検査の丸投げ」は、関西電力に原発を運転する資格がないことを示しています。
原子炉設置・運転の許可基準を規定した原子炉等規制法第24条の三では、「その者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を的確に遂行するに足りる技術的能力があること」と規定され、「これに適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない」と定められています。
質問2−1.関西電力が「検査を丸投げ」し、自らその管理すら行わなかったという事実は、「原子炉の運転を的確に遂行するに足りる技術的能力」に欠け、許可基準を大きく逸脱していると考えますがどうですか。
要望事項3.定期検査の作業はすべて、原子炉を止めてから行うよう、全ての電力会社に指導してください。
美浜3号機事故では、8月14日から定期検査が開始される予定でした。しかし、原発が運転している状況の中で、定検のための作業が行われていました。そのため、多くの犠牲者を生み出すことになりました。
定期検査の期間は、「電力系統から解列した日から検査の最終段階に行われる総合負荷検査終了の日まで」と決められています。明らかに定検の作業でありながら、解列前の作業を「準備作業」と呼ぶのは、単なる形式的な区別でしかありません。
質問3−1.原発が運転している状況で、定検の作業を行うことは違法ではないのですか。
質問3−2.いつから、原発が動いている状態で定検の作業を行うようになったのですか。監督官庁としてその実態を把握し、公表してください。
要望事項4.定期検査の時期は、2次系は25ヶ月ごと、1次系は13ヶ月ごとになっています。2次系の検査を軽視するのはやめてください。
電気事業法施行規則第91条によれば、蒸気タービン(タービン本体、主要弁、復水器、熱交換器及び主要な配管の非破壊検査)の定期検査の時期は、「運転が開始された日又は定期検査が終了した日から1年を経過した日以降13月を超えない時期」となっており、25ヶ月に1度の検査でよいこととなっています。
他方、1次系の定期検査は、「運転が開始された日又は定期検査が終了した日以降13ヶ月を超えない時期」となっており、13ヶ月に1度の検査となっています。
このように、1次系と2次系では、定期検査の時期に大きな違いがあります。1次系は基本的に13ヶ月に1度の検査ですが、2次系は25ヶ月に1度の検査で、検査期間は約2倍となり、明らかに2次系検査を軽視しています。25ヶ月(2年以上)の間に、配管の減肉が進み破断する危険性を無視しています。
要望事項5.老朽原発は廃炉にしていく方向性を示してください。
今回の事故の背景には、老朽原発にムチ打って、定検を短縮し経済性を最優先させる危険な運転があります。老朽化した原発であれば、念入りな検査等が行われて当然です。しかし、新規立地が進まない中、関西電力をはじめ全ての電力会社が老朽炉の稼働率を上げることに必死になっています。定期検査の期間は短縮されています。3ヶ月ほどかけて行っていた定検も、最近では1ヶ月強という大幅な短縮が行われています。定期検査等にかかる費用である原発の修繕費も大幅に削減されています。関西電力の場合、1995年のピーク時から4割も削減され、「経営方針」では今後一層修繕費の削減を行うとしています。このように今回の事故の背景には、経済性を最優先させて安全性を切り縮めるという、全電力会社に共通する問題があります。そのため検査は手抜きとなり、事故の危険は増すばかりです。さらに電事連は、18ヶ月連続運転を要求し一層老朽炉にむち打つ危険な運転を行おうとしています。また国は昨年、1次系機器に「維持基準」を導入し、傷があっても運転を続けることを認めました。2次系配管を含め、十分な検査が行えないのであれば、老朽原発は運転を停止し廃炉にしていく以外に、事故の危険を取り除くことはできないと考えます。
要望事項6.関西電力の原発は現在3基が動いています。運転を停止して徹底した検査を行うよう指示してください。とりわけ、大飯1号を即刻停止するよう緊急の指示を出してください。
事故後関西電力は、原発を順次止めて検査を行っています。9月7日現在、大飯1号、高浜2号、大飯4号の3基の原発が運転しています。とりわけ、大飯1号では、今年7月に2次系主給水配管で、大幅な減肉が見つかっています。数年前に減肉が国の技術基準を超えたのは明らかであり、それ以来関西電力は違法な運転を続けていたのです。大飯1号は、他の箇所でも同様の減肉が起きている可能性が高い原発です。事故後は1度も運転を停止しての検査を行っていません。大飯1号の運転を即刻停止するよう、緊急の指示を出してください。
高浜2号と大飯4号は、事故後運転を停止し約2週間の検査を行い運転再開となりました。しかし、その検査も下記に述べるようにずさん極まりないものです。再度運転を停止して、徹底した検査を行うよう指示してください。
要望事項7.関西電力の原発2次系配管では、運転開始以来1度も検査されていない箇所が1万箇所以上もあります。全ての配管の検査を行うよう指示してください。同様の指導を全ての電力会社に対して行ってください。
関西電力は、事故後、順次運転を停止して2次系配管の検査を行っています。しかし、この検査は、極めて限られた箇所の検査でしかありません(点検リスト漏れ部位、美浜3号の破断箇所と同様のオリフィス下流部、大飯1号減肉部との類似部位)。関電の11基の原発で、運転開始以来1度も検査をしていない2次系配管は1万箇所以上にものぼります。現在行っている検査では、そのうち276箇所を検査するだけです。このような検査では全く不十分です。
また、女川原発2号の給水加熱器系配管では、6・6ミリの肉厚が半分以下の3・2ミリにまで減り、わずか1年余りで予想を超える3ミリ以上の激しい減肉が見つかっています。減肉率で言えば、信じられない程の高さになります。全ての電力会社に対して、配管の徹底した検査を行うよう指示してください。
要望事項8.各原発について、2次系配管等の過去の全ての検査データを把握し、公開してください。
先日、大飯2号では、検査リストには載っていたが運転開始以来25年間1度も検査を行っていなかった2次系配管がありました。このことは、検査リストから漏れているかどうかという問題だけではなく、電力会社の検査の実態がいかにずさんなものであるかを示しています。
保安院は全ての電力会社に対し、8月11日に報告徴収を出しました。しかしその内容は、検査リスト漏れの有無に関する調査を指示しただけでした。また保安院は、8月18日には、美浜3号機に限って、過去の検査データを提出するよう再度の報告徴収を出しました。全ての原発について、美浜3号機と同様に過去の検査データを全て提出させて、公開してください。
要望事項9.9月中に「中間報告」を出すという性急な事故の幕引きはやめてください。老朽原発に対する対策等、事故が提起している根本的問題から目をそむけないでください。
9月6日、福井市で第4回事故調査委員会が開かれました。会議では「中間報告」の骨子までが報告され、9月中に「中間報告」を出すということでした。しかし、その内容は、2次系配管の管理指針は基本的に妥当なもので、今後学会等で透明性を高めた民間基準にしていく等々です。配管の減肉率が加速するなど、管理指針が既に破綻している事実から目をそらしています。また、福井県知事や福井県安全専門委員からは、老朽原発の対策についてどうするのかという問題提起がなされていますが、これら本質的な問題には、一切触れられていません。
9月中に「中間報告」を出すという性急な事故の幕引きに奔走するのではなく、老朽炉対策、検査の実態を明らかにし、本当に2次系配管の安全性を確保できるのか等の根本的問題をじっくり検討すべきです。地元はもとより、広く国民の声に耳を傾けてください。
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