電気事業分科会への要請書

総合資源エネルギー調査会電気事業分科会 分科会長 鳥居 泰彦様
2004年5月18日 コストから原発を考えるプロジェクト

要請書

核燃料サイクル政策見直しの論議が沸騰しています。原子力バックエンド費用19兆円(うち再処理に係るものは16.48兆円)の試算は驚くべき額であり,到底国民に負担を強いることのできるような費用ではありません。この費用負担に対する反発が与党内からも上がっています。しかもこの試算は第二再処理工場を前提としておらず,全量再処理を事実上放棄したものとなっています。一時的な再処理のために,なぜ膨大な国民負担が強要されるのか,またなぜ大気や海や施設の放射能汚染が強行されるのか,強い疑問を抱かざるを得ません。

六ヶ所再処理工場は順調に動く見込みがきわめて低く,このままウラン試験をすれば,トラブルの発生は避けられず,負担は増大するでしょう。青森県では県民の不安と不信の声があがっています。
今ならば,19兆円あるいはそれを上回る巨大な額の負担と放射能汚染を回避することができます。本当に再処理を行うのか否か,今こそ根本的な議論が必要なのではないでしょうか。
原子力開発利用長期計画(長計)の改定作業において,核燃料サイクル政策の見直しは避けられない状況にあります。貴分科会は今,小委員会を設けて,再処理を前提とし,しかも全量再処理を前提として,制度・措置について審議をしています。しかし今やこれが全く意味をもたない状況にあると言ってよいでしょう。今行っている審議を直ちに中止すべきです。
むしろ,長計の改定に向けて,再処理をしない場合の想定を行い,再処理路線からの離脱を可能とするための制度・措置について検討することが必要なのではないでしょうか。そのため,ウラン試験や使用済核燃料の搬入を含めて,六ヶ所再処理工場の建設事業をまずは凍結すべきではないでしょうか。
私たちは,原子力バックエンドコストに関する審議に関して,貴分科会に対して,以下の点を要請いたします。是非とも貴分科会にて全委員にこの文書を配布し,議題として取り上げるようお願い致します。

一.核燃料サイクル政策の根本的見直しを含む原子力開発利用長期計画の改定が行われます。再処理を前提とし,しかも事実上放棄された全量再処理を前提としている今の審議を直ちに中止してください。

一.再処理を行わない場合のコスト試算の提出を求めてください。再処理からの離脱を可能とするための制度・措置について検討してください。

要 請 理 由

1 沸騰する核燃料サイクル政策見直し論議
新聞各紙の見出しに連日「サイクル見直し」の文字が躍っています。再処理の凍結を求める声が与党議員からも上がり,六ヶ所再処理工場のウラン試験の凍結を経済産業省が決めたとの報道が流れる事態に至っています。経済産業省は報道内容を否定していますが,村田事務次官は,核燃料サイクルについては「いろんな方面から疑念や懸念が表明されているのも事実。具体的な進め方については,原子力委員会も長期計画の見直しに着手する中で検討していきたい」と述べています。
今,核燃料サイクル政策見直しの論議が沸騰している一番の理由は,コスト小委員会で見積もられた額があまりに巨大なことにあるのではないでしょうか。福島県知事は近藤原子力委員長に,「大きな国民負担を強いることになりかねない」として核燃料サイクル政策の再検討を要請しました。近藤委員長は,再処理路線の放棄を否定する見解を示していますが,原子力委員会が長計の改定に向けて行った有識者の意見聴取では,使用済核燃料を再処理しない路線との比較検討を求める意見が相次いでいます。
19兆円‐実際には試算を上回る額が必要になると思われますが‐をどのように調達するかをいくら議論したところで,最終的には消費者,納税者につけがまわることになります。このような巨大な額を本当に負担するのか否かという,もっと根本的な議論が必要なのではないでしょうか。

2 19兆円の試算が既に「全量再処理」を放棄させている
新聞各紙は,使用済核燃料の全量再処理路線を転換し,第二再処理工場の建設を白紙にすることが,長計の改定作業で議論されると伝えています。「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」の神田主査は,原産年次大会や青森県による説明会において,全量再処理の見直しと中間貯蔵の長期化を訴えています。
貴分科会のコスト小委員会に電事連が提出したコスト試算には,第二再処理工場の項目はありません。40年後までに発生する使用済核燃料の半量を六ヶ所再処理工場で処理するという想定があるだけです。このことは全量再処理の前提が既に崩壊していることの一つの証でもあります。現にこの試算が,原産年次大会では,全量再処理見直しの議論の材料に使われており,東京電力の佐竹原子力副本部長は,この試算を説明しながら,「長計改定で取り上げられるだろうが,現時点では再処理と貯蔵が半々になるというのが現実的だろう」と話しています。
結局19兆円は第二再処理工場を前提としない額ですが,それでも膨大な国民負担を強いることになるわけです。この膨大な負担に,さらに第二再処理工場の負担を加えることは事実上できない状況にあります。すなわち,19兆円の試算がすでに第二再処理工場を放棄させていると言えるでしょう。

3 「全量再処理」をこっそりと放棄することは許されない
貴分科会と貴分科会が設置した小委員会は,従来の全量再処理の前提に立ち,「再処理はできないのではないか?」,「再処理をしない場合の想定も行うべきではないのか?」といった委員や参考人の発言を封じ込めながら,コストの試算とこれを調達するための制度・措置についての議論を強引に進めてきました。
しかしその一方で,第二再処理工場を含まない試算を用いて,現実離れした全量再処理をこっそりと放棄しようともしています。第4回制度・措置小委員会で植草委員長は「まとめとしてノ中間貯蔵は再処理と直接関わらないとして(項目から)はずす。」と断言し,了承されました。全量再処理の前提では中間貯蔵はあくまで再処理のためのものですから,これが再処理と関らないということはあり得ません。植草委員長のまとめはこれを放棄し,長期間の貯蔵を重視する路線変更をこっそりと行っているとしかみえません。
しかし,例えば再処理までの50年間という約束で中間貯蔵施設の受入れがせまられている青森県むつ市民の前で,「今日から中間貯蔵は再処理とは関係なくなりました。貯蔵した燃料はいつ出て行くかわかりません。」などと言うことができるでしょうか。国の言うことには間違いがない,として,全量再処理を前提とした中間貯蔵施設の誘致決議をした福井県小浜市議会ではどうでしょうか。
建前と本音を都合よく使い分けて人を欺くようなやり方は,すぐに矛盾が露呈してしまいます。とても許されるべきものではありません。
もし第二再処理工場を白紙とするのであれば,それは継続的な再処理事業を白紙とすることを意味します。となると,なぜ限られた期間だけ,しかも使用済核燃料の一部だけを六ヶ所再処理工場だけで再処理をしなければならないのか,という疑問が起こってきます。これに19兆円もの膨大な費用を投入する理由が果たしてあるのか,そのために大気や海に放射能をばらまき,かつ施設を放射能汚染して解体作業で労働者被ばくを増大させることになってもよいのか,このような問題を,試算の想定や解釈の変更だけでこっそりと片付けることはできません。

4 六ヶ所再処理工場が順調に動く見込みはない
六ヶ所再処理工場が順調に動く見込みがきわめて低いことが,この間の使用済核燃料貯蔵プールの不正溶接等による品質保証問題で露呈しています。日本原燃の品質保証についての信頼性は失われました。このままウラン試験をすれば,東京‐青森間を往復してまだ余るという長大な配管から漏れが起こるのは必然です。トラブルが避けられないことは原子力安全・保安院が,3月30日付「評価」で認めています。これに対し,青森県では県民の不安と不信の声があがっています。
試験中にトラブルが発生すれば,あるいは稼動中のトラブルにより稼働率が低下すれば,コストが今の試算を上回ることは必至です。内外の再処理工場の操業実績から見ても,稼動率100%の場合だけを想定するコスト試算は,全く現実を反映していません。

5 今の審議を中止し再処理からの離脱を検討すべき
長計の改定作業において,核燃料サイクル政策の見直しは避けられない状況にあります。貴分科会は今,小委員会を設けて,再処理を前提とし,しかも全量再処理を前提として,制度・措置について審議をしています。しかし今やこれが全く意味をもたない状況にあると言ってよいでしょう。今行っている審議を直ちに中止すべきです。
むしろ,長計の改定に向けて,再処理をしない場合の想定を行い,再処理路線からの離脱を可能とするための制度・措置について検討することが必要なのではないでしょうか。そのため,ウラン試験や使用済核燃料の搬入を含めて,六ヶ所再処理工場の建設事業をまずは凍結すべきではないでしょうか。
ウラン試験を行い,工場を放射能で汚染してしまうか否かは,再処理工場の解体コストに大いに影響します。このことは,小委員会に示された原発の解体コストが火力発電所の9倍であることを示す資料からも明らかです。

以上

電気事業分科会への要請書(PDF, 19.1KB)

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■「コストから原発を考えるプロジェクト」は,消費者団体,環境保護団体,脱原発団体の連合体です。原発のコストの問題に焦点をあて,市民や国会,電力会社などに,「もう、原発はやめていこう。他のやり方をすすめよう。」と呼びかけていきます。当面の課題として,原発コストを大幅に増やす核燃料の再処理は止めるべきであることをアピールし,原発に偏った経済的優遇措置や税金投入への動きを監視していきます。

呼びかけ団体(アイウエオ順):核燃やめておいしいごはん/グリーン・アクション/グリーンピース・ジャパン/原子力資料情報室/ストップ・ザ・もんじゅ東京/東電と共に脱原発をめざす会/日本消費者連盟/ふぇみん婦人民主クラブ/福島老朽原発を考える会