六ヶ所と水俣が映す世界:アイリーン・美緒子・スミス

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原子力委員会が破った33年前の約束
放射能海洋放出をゼロにする法律の制定を求める岩手の自治体
グリーン・アクションニューズレター2006年冬号(2006年12月11日発行)より]

水俣病の教訓

今年は水俣病公式発見の50周年でした。「水俣」は日本の高度成長の歪みとして一地域が深刻に傷ついた事件です。被害者たちの「こんな苦しみは私たちだけにして欲しい……」という訴えは切実です。現在、認定申請者は4600人を超え、さらに医療手帳申請者は7000人を超えています。

水俣病を引き起こした発想は、「海に捨てれば薄まるから大丈夫」「経済成長の為に犠牲が有っても良い」、そして「その犠牲は都会から離れていれば良い」というものでした。つまり「得」する人と「損」する人がいたのです。

水俣病事件から私たちは多くのことを学んだはずです。しかし、今、青森県六ヶ所村では毒であると知りつつも放射能を垂れ流す工場が動き出しています。六ヶ所再処理工場の本格営業が予定されている2007年の8月までに、私たちはどのような行動を取って行けばよいのでしょうか?

六ヶ所再処理工場──合法的に許されている犯罪

六ヶ所再処理工場が本格運転すると通常運転で放出される放射能はすさまじいものです。全国の原発から集められた電気のゴミ(死の灰)は工場の中で燃料棒から取り出されるので、広島・長崎に原爆が落とされた時に降った死の灰の何万倍・何十万倍にもなります。希ガスの放射能は大気へ全量放出されます。海へは口から取り入れたら47,000人もの人を殺す量が毎年放出されます。海へ流す排水の濃度規制はありません。再処理工場から出るプルトニウムは国が原発で大事故が起こった場合放出されると計算している量のおおよそ18倍も毎年通常運転で放出されることになります。工場を持つ日本原燃と国の論理は、すべて「薄まるから大丈夫」。

原燃は大気に出される放射能は高い煙突から遠くに行き、薄まるまでは地上に降りてこないというモデルを作っていますが、現実はこれとは違うので、フランスでは2000年からこのようなモデルは採用されていません。原燃がフランスのモデルを採用したら市民が浴びる放射能の被曝評価が高くなり、自ら設定している値を上回ってしまいます。

放射能放出をゼロにする法律の制定を要請する自治体岩手県では今年、宮古市を含め8市町村の議会が六ヶ所再処理工場からの放射能放出をゼロにする法律を制定するよう国に意見書を出しました。原燃のモデルだと海に放出される放射能は岸には押し寄せないことになっています。しかし2002年の市民の調査*で明らかになったことは排水口周辺の海水は北海道、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の海岸に打ち上げられるということです。原燃はこれにはいっさい反論をしていません。(*2002年8月26日、約一万枚の葉書を放流した調査)

大手スーパー──微量の放射能でも扱いたくない

青森県は、再処理工場が稼働した結果、農産物と魚介類にどのくらい放射能が混入されるかを2月7日に発表しました。市民グループと消費者グループが関西と東京の大手スーパー宛に行った青森県産・岩手県産の食材の放射能汚染についてアンケートの結果*、幾つもの会社が、「放射能を含む食品を消費者に提供することについて「『微量』でも極力扱いたくない」と回答したり、食材が放射能で汚染された場合は取り扱い中止にすると回答しています。関西のアンケート結果を受け、青森県農協中央会の種市一正会長は、「放射能や残留農薬にかかわらず農産物に汚染があれば生産者は販売できない」と述べたことが新聞に掲載されました(デーリー東北2006年5月18日)。(*関西は美浜の会とグリーン・アクション、関東は日本消費者連盟とふぇみん婦人民主クラブの呼びかけで実現:再処理工場による青森産・岩手産の食品汚染に関する関西大手スーパーへのアンケート結果の最終報告

原子力委員会が破った33年前の約束

水俣病の企業責任が法的に確定された1973年3月20日の熊本地裁判決から10日後の30日、当時の原子力委員会委員長兼科学技術庁長官の前田佳都男氏は、建設中の茨城県東海村再処理工場につき、「この工場から大気中や海中に放出される放射性廃棄物をゼロにするよう、技術開発に全力を尽くし、昭和五十年の同工場の運転開始までに間に合わせたい」と、約束しました。

このことを取り上げた当時の新聞は、「原子力の安全性に関する最大級の政策転換として注目される」と報じています。

ところが、33年の月日がたった今、約束は完全に破られ、青森では巨大な六ヶ所再処理工場が本格運転を来年に控えています。

前田長官は約束した当時、水俣病判決を以下のように引用していたことが新聞に書かれています。

「化学工場が廃水を工場外へ放流するときは、常に最高の知識、技術を用いて安全性を確認し、万一安全性に疑問を生じた場合はただちに操業を中止するなど、必要最大限の防止措置を講じ、地域住民の生命、健康に対する被害発生を未然に防止すべき高度の注意義務がある。いかなる工場でも、その生産活動を通じ環境を汚染し破壊してはならず、いわんや地域住民の生命、健康を侵害し、犠牲にすることは許されない」(1973年3月31日の朝日新聞より)

六ヶ所再処理工場運転10年後をイメージ──今こそ行動へ!

六ヶ所再処理工場の10年後を想像してみると、蓄積する環境汚染の広がりとそれに対する抗議(ヨーロッパでは12ヶ国がフランスとイギリスの再処理工場の停止を求めています)、周辺住民の被曝、健康被害の因果関係を断定する戦い(イギリス・フランスでは再処理工場の周辺で白血病が多発していますが、因果関係は未だ争われています)、農民・漁民の損害などなど、未来は、大事故が起こらなくとも容易に想像できます。

これでは、水俣の教訓から学べたとは、いいがたい状況です。

水俣病の教訓を生かすのなら、それは今です!

全国各地の市民は現在、日本原燃宛に被曝評価の見直し、海への放出の事前の情報公開、アクティブ試験の中止などを要求する要望書を出し続けています。

公害を危惧するすべての人々が、それぞれの特色を活かしたかたちで抗議し、六ヶ所再処理工場を廃止に追い込んで行きましょう!